伯爵令嬢は胸を膨らませる〜「胸が小さいから」と婚約破棄されたので、自分のためにバストアップしてからシスターになります〜
何を基準にしようが本人の勝手
ローザは表情を緩める。
「ありがとう、ふたりとも。それにしても、安産型体型がはやり始めたのはここ最近だというじゃない? 腰が細いのは美人の条件だとお母様も言っていたけど、お尻や、特に胸が重要視されることはお母様の時代はなかったと聞いたわ。一体誰が広めたのかしら。連れてきて頬を引っぱたきたいわ」
「そうね。わたくしも同じくその者を縄でぐるぐる巻きにして逆さ吊りにしたいわ」
「ヘレナ、それは主が悲しまれるわ。せめて『わたしが根拠のない嫌らしい外見至上主義を広めました!』と裸で馬に乗らせて街中に宣言させてから国外追放してさしあげるとか」
ローザに続いたわたくしをマーガレットがたしなめた。マーガレットの言っていることがかなりむごいのが恐ろしいところだ。
ただ、分かったのは、マーガレットのように体型が不利とされている令嬢でも、婚約して社交界の争いから抜けて幸せそうにすごしているということ。ローザのように体型が有利で結婚相手など選び放題では、と思われる令嬢が嫌な思いをしているという事実。世の中は本当に理不尽にできている。不利と有利は裏表、悪いと思われることでもいいことに、いいと思われることでも簡単に悪いことになってしまう。
そして本当は体型至上主義も、家柄至上主義や持参金至上主義と同じ舞台にいて変わらないということだ。
わたくしが『胸が小さいから婚約破棄』のせいで体型至上主義滅びろと思っているだけで、家柄だって持参金だって選り好みされていることは変わらない。もっと言えば顔がよくないと嫌だとか、身長が嫌だとか、何を基準にしようが本人の勝手なのだ。選り好みという舞台では優劣などない。たまたま今回は体型だったというだけだ。
でも、家柄や持参金は家のことだけど、体型はわたくし自身を否定されたようだから苛立つんでしょうね。きっと。
オークのドアがノックされた。入ってきたのは黒いフロックコートに、わたくしと同じ銅のようなピンクオレンジの髪の、兄アルバートだった。
「アルバートさま!」
マーガレットが勢いよく立ち上がる。揺れた紅茶のカップをわたくしは見事押さえ、「ああ! ごめんなさい!」と青ざめたマーガレットをなだめて座らせた。
「いきなり入ってきてしまってすまないね。けれどどうしてもあいさつしておきたくて。ふたりとも、ヘレナのために来てくれたんだろう? ありがとう。君たちのような友人がいてヘレナは幸せだよ」
アルバートとマーガレット、ローザが微笑み合う。
一転、アルバートの表情に闇のような影が差した。
「それに比べてあの名前を言うのもはばかられる伯爵は……本当は僕自ら剣を取ったんだけれど止められてしまってね。かわりに暗殺者を雇おうかと」
「ありがとう、ふたりとも。それにしても、安産型体型がはやり始めたのはここ最近だというじゃない? 腰が細いのは美人の条件だとお母様も言っていたけど、お尻や、特に胸が重要視されることはお母様の時代はなかったと聞いたわ。一体誰が広めたのかしら。連れてきて頬を引っぱたきたいわ」
「そうね。わたくしも同じくその者を縄でぐるぐる巻きにして逆さ吊りにしたいわ」
「ヘレナ、それは主が悲しまれるわ。せめて『わたしが根拠のない嫌らしい外見至上主義を広めました!』と裸で馬に乗らせて街中に宣言させてから国外追放してさしあげるとか」
ローザに続いたわたくしをマーガレットがたしなめた。マーガレットの言っていることがかなりむごいのが恐ろしいところだ。
ただ、分かったのは、マーガレットのように体型が不利とされている令嬢でも、婚約して社交界の争いから抜けて幸せそうにすごしているということ。ローザのように体型が有利で結婚相手など選び放題では、と思われる令嬢が嫌な思いをしているという事実。世の中は本当に理不尽にできている。不利と有利は裏表、悪いと思われることでもいいことに、いいと思われることでも簡単に悪いことになってしまう。
そして本当は体型至上主義も、家柄至上主義や持参金至上主義と同じ舞台にいて変わらないということだ。
わたくしが『胸が小さいから婚約破棄』のせいで体型至上主義滅びろと思っているだけで、家柄だって持参金だって選り好みされていることは変わらない。もっと言えば顔がよくないと嫌だとか、身長が嫌だとか、何を基準にしようが本人の勝手なのだ。選り好みという舞台では優劣などない。たまたま今回は体型だったというだけだ。
でも、家柄や持参金は家のことだけど、体型はわたくし自身を否定されたようだから苛立つんでしょうね。きっと。
オークのドアがノックされた。入ってきたのは黒いフロックコートに、わたくしと同じ銅のようなピンクオレンジの髪の、兄アルバートだった。
「アルバートさま!」
マーガレットが勢いよく立ち上がる。揺れた紅茶のカップをわたくしは見事押さえ、「ああ! ごめんなさい!」と青ざめたマーガレットをなだめて座らせた。
「いきなり入ってきてしまってすまないね。けれどどうしてもあいさつしておきたくて。ふたりとも、ヘレナのために来てくれたんだろう? ありがとう。君たちのような友人がいてヘレナは幸せだよ」
アルバートとマーガレット、ローザが微笑み合う。
一転、アルバートの表情に闇のような影が差した。
「それに比べてあの名前を言うのもはばかられる伯爵は……本当は僕自ら剣を取ったんだけれど止められてしまってね。かわりに暗殺者を雇おうかと」