わたしだけの吸血鬼

『おじちゃんは?どこに行ったの?』
『お家に帰ったよ』
『また来てくれる?』
『流衣が良い子にしていたらね』

 夜紅さんの行方を尋ねた私を、お父さんは困ったように笑って抱きしめてくれた。

 お父さんが夜紅さんの再訪についてお茶を濁した理由が今ならよくわかる。

 何年経っても姿形の変わらない夜紅さんの存在が私を混乱させてしまうことを懸念したのだろう。

(やだ、もう……。私、昔から夜紅さんのこと大好きじゃん)

 あれは、まごうことなき初恋だった。

 なんで今まで忘れていたんだろう。
 私は小さく笑った。

 紅い瞳に魅入られた私は、ビー玉もピアノの発表会のドレスもランドセルも、好んで赤を選ぶようになった。

 夜紅さんに少しでも近づきたかった。けれど、もう手遅れだ。

(夜紅さん、大好きだよ)

 両親のお葬式の日、夜紅さんが家にやってきたのは偶然ではなかった。

 十年以上の時を経て、寂しいと訴える私の元に現れてくれた。
 拙い約束を覚えていてくれてありがとう。
 一番辛い時に傍にいてくれて嬉しかった。
 
(さよなら……)

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