炎の魔女と氷の皇帝＊転生したら弟子と契約結婚をすることになりました＊

炎の鳥と白い手紙

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　天を貫く火柱が上がる。爆音とともに大地が揺れ、熱風と炎が駆けぬけた。すべてを飲みこみ、灰にするために。

　他に、選択肢はなかった。

　クレア・ガーネットは最後の力をふり絞って立ちあがると、気を失っている愛弟子を抱きしめた。危うく、大事な彼を目の前で失うところだった。大きな怪我はなく、胸をなでおろす。

「炎の鳥。この子を……リアムを、守って」

　輝く銀色の髪と、陶器のように白く滑らかな肌を持つ少年は、氷の妖精のようだ。煙火の中でも涙のあとが乾かずに頬に残っている。指先で拭おうとしたがやめた。自分の手が血で汚れていたからだ。
　彼の手をつかみ、炎を閉じこめたような輝きを放つ『魔鉱石』を握らせる。

　――リアムならきっと、正しく使ってくれる。

　本物はこのひとつだけ。偽物は全部燃えて、砕け散るだろう。
　咳をすると血の味がした。日が沈むにはまだ早く、炎に囲まれているのに黄昏時のように暗い。見える範囲も正面だけで、ずいぶんと狭くなった。

　自分は、間もなく死ぬのだろう。なのにそこまで怖くないのは、大切な弟子を守り抜けたから。

「リアム。私の分も生きて、幸せになって、ね……」

　彼をもう一度抱きしめると、そっと地面に寝かせた。
　沸き立つ黒煙から、鳥の形をした炎が現われた。
『炎の鳥』だ。
　狭窄(きょうさく)した視界でもその姿はよく見えた。自分よりも大きく、両翼を広げこちらに向かって飛んでくる。

　身体は重く、指ひとつ動かすこともできない。このままこの命を捧げ、罪を償う。リアムとみんなを守るために、クレアは目を閉じた。

「師匠……」

　聞こえてきた、か細い声に心臓が強く跳ねた。顔だけ振って後ろを向く。
　青空を閉じこめたような、リアムの碧い瞳が涙で揺れていた。

　熱風を感じる。彼を巻きこまないように少しでも離れたいが、足が動かない。笑みを顔に貼り付けるのが精一杯だった。次の瞬間、朱く輝く炎の鳥に飲みこまれた。