炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*
「どうした」

 話しかけるが、小さな炎の鳥は首をかしげるだけだった。
 ジーンはリアムの手の上で揺らめく、鳥の形をした炎を見つめながら言った。

「深紅色《ピンク色》の炎ですね。ミーシャさまの髪の色みたいです」

 もう一度、二階のバルコニーを見た。彼女はこちらに気づいていない。
 ジーンは「ミーシャさまにお声をかけますか?」と聞いた。

「いや、いい」

 フルラ国には毎年訪れていたが、病弱で引きこもりの令嬢、ミーシャには、一度も会うことが叶わなかった。
 彼女を守るために、公の場に連れ出さなかったエレノア女公爵の考えは理解できるが、ミーシャがクレア師匠に似ていることだけは、もっと前から教えて欲しかった。

 ――今度こそ、彼女を守る。

 炎の鳥がひときわ激しく輝きだした。
 白狼が、音もなく現われ、傍に来たからだった。しっぽを振りながら、手の上にいる精霊獣を鼻先で嗅いでいる。

 ジーンは驚いているが、リアムは冷静にようすを観察した。
 見つめていると、炎の鳥は両翼を広げた。手からふわりと羽ばたき、空へ舞い上がった。

 あの時のように、炎の鳥が空へと溶けていく。

 ――クレア師匠。俺は、あなたが望んだような大人になれなかった。ごめん。
 この命ある限り、ミーシャは守る。だからもし、いつか会えたなら、そのときは許してください。

 もう見えなくなった炎の鳥を求めるように、手を握りしめた。
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