炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*
「私が、陛下の妹?」
「そんなはずないでしょう。ミーシャさま、しっかりなさってください。あなたさまは、氷の皇帝の婚約者です!」
「仮の、婚約者ね」

彼のことが好きだと自覚したが、このまま、恋に浮かれていいわけがない。

リアムのやさしさや言葉は、どれも彼の本心だとわかっている。けれど、そこに恋愛感情が含まれているのかというと、とても微妙だ。

 「リアムはやさしいし、待遇もよくしてくれる。自分をさらけ出してくれている部分もあると思う。だけどそれは、私がクレアの親族だから。それ以上でもそれ以下でもない。身内への愛情みたいなものだと思う。本当の恋人にはなれないのよ」

 自分が放った言葉が胸をえぐる。
リアムの何気ない言動でいちいち胸はときめくが、現実問題、二人の関係は脆い。漠然とした不安と痛みがミーシャを苦しめた。

「陛下のお気持ちは、期待してもよろしいと思いますよ?」

ミーシャは首を横に振った。

「この想いは、彼の足枷になる。だから、しまっておくの」

 下を向いていると、ライリーが心配そうに覗きこんだ。

「陛下のことが、お好きなんですね?」

 彼女を見つめながら、ミーシャはこくりと頷いた。

「だったら、がまんする必要なんてありません」
「だめよ。私は、白い結婚期間が終われば、フルラに帰るの。あなたともそう約束したでしょう? 私は、前世の罪を償う身。本来、あの人を想うことすら(はばか)られるわ」

「しまっておくって、そんなの無理でしょう。だいたいしまっておく必要がどこにありますか? 好いた人の傍にいたいと思うのは、普通です」
「私たちは普通じゃない。彼は氷の皇帝で、私は悪魔女クレアの生まれ変わりよ?」

 グレシャー帝国では魔女は倒すべき敵で、フルラ国でも魔女は悪だと広まりつつおる。

「クレアの私は、幸せになる資格が……」
「いいえ、あなたさまはミーシャ。クレアではございません」

 ライリーはぴしゃりとミーシャの言葉を切った。

「私は前にも言いました。ミーシャさま。どうか幸せになってくださいと。陛下への想い、しまっておく必要はありませんよ」

 向けられているまっすぐな瞳と心からの言葉。ライリーの気持ちが伝わってきて胸を焦がす。

 しまっておくべきだと思う一方で本心は、芽吹きはじめた気持ちに蓋をしてしまうことに抵抗があった。

 誰かに肯定してもらいたかった。それが心から慕っているライリーからだったのが嬉しくて、ミーシャは、ぐっと唇の端を噛むと小さく頷いた。

 コツンと部屋の外で物音がした。侍女が戻ってきて訊いてしまったのかと思い、ミーシャは急いでドアを開けた。

「待って」

立ち去ろうとしている人を呼び止める。振り返った相手は、ナタリー・アルベルトだった。
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