炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*

炎の魔女と氷の皇帝

そこが戦場でも気丈に振るまうビアンカだが、顔色は白く、体調が悪そうにミーシャには見えた。
 ただ、瞳には今までにない覚悟がにじんでいる。リアムの前まで進むと、上品で隙のないカーテシーをした。

「ごあいさつ申しあげます。偉大なる氷の英雄に栄光を。皇帝陛下、遅ればせながら馳せ参じました」

「義姉。呼びかけに応えてくださったんですね」
「陛下のご命令ですもの。当然でございますわ」

 ビアンカはにこりとほほえんだ。

「私がカルディア兵を引き留めます」

 ミーシャは目を見開いた。どういうことかわからず、隣に立つリアムの横顔を見た。

「先に手を打っていると言っただろ。その一つだ。皇妃には故郷の進軍を止めていただく」
「仰せのままに」

 ビアンカは一度お辞儀をすると、皇妃の顔から母親の顔に変わった。

「陛下。今、私の後宮に、()()()がいらっしゃっています。……ノアと一緒です。皇太子に危害は加えないと思いますが、ここは私に任せて、陛下は急ぎ氷の宮殿へお戻りくださいませ」

「わかった。ここでの用事が済んだらすぐに戻る」

 ビアンカはお願いいたします。と念を押すと、深く頭をさげた。

「私は、最初から最後まで榧の外。あの方の瞳に映ることはできませんでした。ですが、陛下は違います。あの方をどうぞ、お止めくださいませ」

 ビアンカは憂いの眼差しを残し、背を向けた。

「ビアンカ皇妃」

 リアムが呼び止めると、彼女は立ち止まり、ゆっくりと振りかえった。

「ノアを置いて、カルディアへ帰りますか?」

 その問いにビアンカは、一瞬顔を歪めたがすぐに「いいえ」と答えた。

「宮殿を発つとき、ノアと約束をしました。帰ったら一緒に雪遊びをしようって。美味しいご飯とお菓子を食べて、温かいお風呂に入り、一緒のベッドで寝ようと。……私は、ひどい母親だったというのに」

 ビアンカは眉尻をさげると、言葉を続けた。

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