炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*
「守ると言ったのは、口先だけか」

 オリバーを何度も追い詰めた。とどめを刺すチャンスはあったのに、決めきれなかった不甲斐ない自分に憤りを感じた。
許せなかった。そばを離れ、一人で行かせたことを悔やんだ。怒りと後悔ばかりが胸を埋め尽くしていく。

 彼女の声を聞き、会話を交わし、触れ合うことがもう二度とできない。
 未来に、彼女がいないと思うと、絶望で眼の前が真っ暗だった。

「一緒に、幸せになる未来を考えてくれるんじゃなかったのか。あきらめていた幸せを掴むと約束した。なぜ、俺よりも先に逝く!」

 リアムは自分の胸を鷲づかみした。

「この胸の痛みはどれだけ憎しみを燃やせば消える? ミーシャ、答えてくれ」

 業火となった碧い炎は、哀しみと怒りを燃料に、いつまでも燃えたぎる。

「憎い。殺してやりたい。あの男を……!」

怒りで狂いそうなリアムが、顔をあげたときだった。眼の前に、朱鷺色の炎を煌めかせる小鳥が舞い降りた。

「……おまえは」

 朱鷺色の炎の鳥はミーシャの上に降り立つと小首を傾げ、また小さな翼を広げ飛び立った。リアムと奥へと繋がる道を往復して飛ぶ。
 呼んでいるとすぐにわかった。
 
リアムはミーシャを腕に抱いたまま、ゆっくりと立ちあがった。
 きらきらと、朱い火の粉を落としながら飛ぶ小鳥に導かれ、暗い道を進んだ。

 さっきまでいた場所よりも地下は明るく、朱く燃えていた。
 足元は水で濡れている。この地下空間全部が氷で覆われているはずだった。それを炎の鳥が溶かしてさらに最深部へと進んでいる。

 溶けた水が一定以上たまらずに、()けている。それはつまりどこかに排水されているということだ。

『洪水を、とめてッ……!』

 地下宮殿の中だけでも相当量の氷。さらに下には数百キロにも及ぶ分厚い氷が大地を覆っている。その氷すべてを炎の鳥が溶かせば、ここより低地の帝都に一気に流れこむ。
犠牲者は計りしれない数になる。

 リアムはミーシャをぎゅっと抱きしめると、さらに奥へ向かった。
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