炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*
「さっそく、ご案内いたします」

 数十人の衛兵が整然と並ぶ前をゆっくりと進む。人の背の倍以上ある大きな扉の前に立つと、ミーシャは静かに唾を飲みこんだ。
ジーンが扉を開けるように合図する。

 高い天井には、きらきらと輝く大きなシャンデリア。鏡のように磨きあげられた白い床が、天窓から差しこむ光りを受けて眩しい。

「氷の宮殿へようこそ」

 玄関の大広間ホールの中央にいたのは、リアム・クロフォードだった。

 皇帝陛下自ら出迎えてくれるとは思っていなかったミーシャは固まった。
リアムは侍従たちをその場に残して一人、こつこつと靴音を響かせながら近づいてくる。急いで屈膝礼《カーテシー》をした。

「令嬢、顔をあげて。長旅で疲れただろう」
「すてきな馬車を用意していただいたおかげで、快適でございました。……陛下こそ、お身体は大丈夫ですか?」

 質問を投げかけながら、リアムのようすを観察した。

 月光を閉じ込めたような銀髪が、さらりと揺れた。  
 透きとおった碧い瞳にまっすぐ見つめられて、胸の鼓動が速くなっていく。

「身体は大丈夫。あなたにまた会える日を、心待ちにしていた」
 
 社交辞令だとわかっていても心待ちしていたと言われ、胸が跳ねた。

 ――しっかりしなくちゃ。このくらいで動揺してどうするの。

 気合いを入れ直し、リアムに向かってにこりとほほえみ、「私もです。陛下」と答える。

「令嬢、部屋へ案内する」
 
 リアムに手を差し出され、ミーシャは驚いて目を大きくさせた。

「陛下自らですか?」
「ああ。いやか?」
「いえ、光栄です。……ありがとうございます」

 本当に歓迎されているみたいで、勘違いしてしまいそうだ。
 クレア師匠の血縁者で、ガーネット公爵令嬢だから彼はここまでするんだと、自分に言い聞かせてからミーシャは、差し出された彼の手にゆっくりと触れた。

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