炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*

治療方法は添い寝?

「きみは気づいていないようだが、この部屋は今、零度を下回る寒さだ。侍女を呼べない以上、きみの着替えは俺が手伝うしかないだろう」
「大丈夫です! このまま寝ます」

 リアムは、「ドレスで寝るのか?」といぶかしげな顔だ。

「私の着替えよりも、陛下を温めるのが先です」
「だったら、早くこっちへ来たらどうだ」

 彼の言うとおりだと思い、ミーシャは再びそろりと近づいた。

「そもそも、なんで部屋が一つなんですか? 後宮は?」
「後宮? ない」
「ない? なぜですか」

 傍にいたほうがいいのは理解できた。だがせめて、着替えくらいは自室でしたい。なのにその部屋がないとはどういうことだ。

「廃した。必要ないからな」

 先帝の妃、ビアンカだけは専用の屋敷がある。しかしそれ以外は不要だと、彼は言った。

「先々帝、俺の父親のときから後宮は廃れ、機能していない。王が短命で入れ替わりが激しいのが一因だ。俺が即位してすぐに、経費ばかりかかる不要な後宮は取り潰した」

 ――先々帝が身罷られたあと、リアムの母親の皇妃はどうなったの? 

 質問していいのか迷っていると、彼の手がミーシャの手に触れた。驚いて彼を見る。

「横になって早く寝ろ」

 触れられている手は氷のように冷たい。魔力の使いすぎだ。思わず彼の手をぎゅっと握り返した。

 いつもより力のない、とろりとした眼差しでリアムが見つめてくる。
 視線を少し下げれば、襟がゆるめられたことであらわになった首筋と、子どものころにはなかった喉仏が見えた。目のやり場に困り、顔を逸らした。
 
 ――これは、添い寝! クレアだったときに六歳のリアムによくしてあげた。
 ちょっと大きくなって、今年二十六歳なだけ。だから、問題ない!

 照れている場合ではないと、勇気を震い立たせた。やわらかくて手触りのいいベッドシートに片方の手を置いた。

「お隣、失礼します……」
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