炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*
「よかった。陛下、ちゃんと笑えるんですね」

 にこりとほほえみかけると、リアムは笑みをとめ、目を見開いた。
 ふいに抑えられていた手の圧がやわらいだ。彼が拘束を解いたのだ。

「きみのほうが子どもだろ。いい子はさっさと寝ろ」
 
 リアムは枕をつかむと、「ぬいぐるみ代わりだ」と言って、ミーシャの胸に押しつけた。
 
 やっぱり子ども扱い! と、言い返しそうになったが、そもそもそうだったと思い直した。

 つい、同世代と錯覚してしまうが、リアムと自分の歳は逆転している。彼のほうが今は十歳も年上だ。それならばと、枕を胸に抱きしめたまま口を開いた。

「陛下の治療のため、今夜から毎晩、寝台を共にさせていただきます」

 リアムは、眉根を寄せた。

「たった今、絶対いやだと言っていたのに?」
「組み敷かれるのはいやですが、治療するなら添い寝が一番です。根本的な完治まではしかたありません。だから、」

 ミーシャは念押しするために彼に顔を近づけた。

「凍化でつらいときは我慢せずにすぐに言うこと。強がり禁止です」

 睨みながら伝えると、リアムは眉尻を下げて笑った。

「きみは、やっぱり変わった令嬢だね」
「他の令嬢がどうなのか知りませんが、これが私です」
「わかった」
「わっ!」

 リアムは再び、ミーシャをベッドに押し倒した。しかもぎゅっと抱きしめている。

「ちょっと、陛下、苦しいッ!」
「きみは、俺のいぐるみ代わりになってもらう」
「……陛下も、お子さまだったのですね」
「よく喋るぬいぐるみだけど、落ち着く」
「子守歌でも歌いましょうか?」

 大きな腕の中でどきどきしながらも言い返すと、彼からは「もう寝ろ」と返ってきた。

「歌は次の機会に取っておく」

 ミーシャの頭をよしよしとなでている。完璧に子ども扱いだ。
 心音がとくとくと聞こえる。彼を温めるにはこれが早いと、ミーシャは心の中で呟くと、そろりとリアムの背に手を回した。

「おやすみなさい、陛下。いい夢を」
「おやすみ。……ミーシャ」

 緊張で眠れないと思ったが、長旅とパーティーの疲れから身体と瞼が重い。ミーシャはすぐに夢の中へと落ちていった。
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