炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*
「どうして、そんなことを……そもそも、本当に敵、なんですか?」

 結界は敵と定めた相手を凍らせると聞いた。それでも、信じられなかった。

「俺を利用し、師匠を死に追いやった。あいつは、最初から俺の敵だ」

 リアムの身体から強い魔力を含んだ青白い冷気が、次々と立ちのぼる。
 憎しみに染まる彼の背が痛々しい。ミーシャは思わず泉の上に立った。彼に近づき、その背に触れる。

「陛下、結界の補強はもう十分でしょう。気持ちはわかりますが、今は魔力を抑えてください」
「この機を逃したくはない。このまま追跡をする」
「捕らえる前に、陛下が凍ってしまいます」

 剣を強く握りしめている彼の手を、ミーシャはそっと包みこんだ。

 ――痛いくらいに冷たい。
 オリバー大公がなぜリアムを裏切ったのかわからないし、ずっと気になっていた。しかし考えるのはあとだ。
 
 ミーシャは彼の手をぐっと握り、魔力をこめた。

「危ないから離れろ!」
「いやです。私はオリバー大公より陛下が大事です!」

 想いが届くように、声を張った。

「陛下は、民を守るためにこれまで尽くされてきた。違いますか? 結界を張ったのは他国に侵略されないように、争わないためにですよね? オリバー大公を追うのが目的じゃなかったはずです!」

「あいつの目的は、今も昔もわからない」
「わからないからこそ、今は体調を整え、守りを強化するべきです。だから、お願いです。力を抑えて!」

 リアムは苦しそうに顔を歪めた。

「……また、奪われる。大切な人を失うのはもう、こりごりだ」

 怒りというより恐怖がにじむ、声だった。
 下から覗きこむと、リアムの碧い瞳は、寂しさに沈んでいた。

 彼は、クレアの罪の犠牲者だ。
 国の思惑や、オリバー大公の企てに気づけず、対処できなかった。守るべき幼い皇子に、一生の傷を負わせてしまった。後悔と自分の非力さに胸が痛い。
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