スノーフレークに憧れて

第2話

白狼 龍弥(しらかみりゅうや)高校1年。
学校ではバリバリのガリ勉で話しかけるなオーラを発しながら、1人で過ごしている一匹狼だ。


 友達なんていらない。

 話したくもない。

 同級生なんて、話もろくに合わないやつばかり。ここは居心地が悪い。期待なんてしてない。

 ただ、ここに来る理由は、高校卒業するために通うだけだ。


 そんなで社会人なれるのかと大人たちは言うだろう。

社会に出れば同級生なんて、同じ年になるやつなんて数知れている。


ほとんどは年上ばかり。


上司なんてふたまわりも離れてる。


そんなの知ってる。


 コンビニでバイトもしてるし、新聞配達して、多少は人間関係の仕組みはわかってる。


淡々と仕事をこなせばお金は稼げる。


そんなで無理だと言う奴もいる。


龍弥の居場所は学校という場所じゃない。


家からバイクで20分の距離にある、フットサル施設だ。

 この施設は、スマホで会員登録すると中学生以上であれば誰でもできるクラブがある。毎日募集している。
募集人数は18人。誰のどこの人かわからない人が集まってフットサルをする。
もちろん、中学生の13歳から50歳くらいまで幅広い年齢層が集まって夜な夜な汗を流している。



 龍弥にとってのコミュニティはそこにあった。

もちろん、そこでの龍弥は分厚いレンズのメガネをしなければ、黒髪のロン毛でもなく、ブリーチにブリーチを重ねた銀髪で、両耳に大きな穴にピアスを開けてた。


学校に行く時は、ヘアネットをかぶってから、黒髪ロン毛をかぶってごまかしていた。

 友達も寄ってこないため、誰も気づきもしない。



名前と顔が一致するくらいの陽なキャラで過ごしていた。


 
日頃、我慢している滝が流れるくらいに口から出るわ出る。


喋る喋る。


仲間たちはうるさいなーと煙たがれるほどだった。


 それでも、仲間のみんな龍弥が年下ということもあり、面白がって、ひざかっくんやくすぐったりして、龍弥を構っていた。


 フットサルクラブでは、リアクションもよく、騒がしいが面白い奴だと評判だった。


 本名では登録していないため、高校の名前は伏せていた。



「龍弥、右だ、右!」


「え、右?」


言われた方向にダッシュでボールを追いかけて、ゴールにシュートを決めた。



 キーパーは防ぎきれず,ゴールを許してしまった。




「龍弥さん、早いっす。」


「すごいだろ?」


中学2年生の 滝田 湊(たきた みなと)が息をあげながら言う。顔馴染みだった。



「龍弥~、マジ,早いって、手加減しろっての。」




「何言ってんですか、これくらい普通ですよ,下野さん。」



会社員27歳 独身の下野 康二(しものこうじ)が息と膝を震わせて言う。


今回初参加の他のメンバーの名前は覚えていないが、いつもたまたま一緒になるのは滝田と下野だった。



他にも3,4人、年上の仲間がいる。


学校の人間関係の構築なんてできるわけないと思っている。


そんなのやる暇あったら、好きなものを楽しめるやつとこうやって過ごす時間が大事だと龍弥は思っていた。


表と裏の顔だった。


時々、どっちが本当で嘘かわからなくなるが、このフットサルでいる自分は割と本物に近いのかもしれない。



尚更,この空間は、学校の同級生や先輩、先生にはバレたくなかったが、間接的にバレるのではないかと思う人がメンバーに時々入っていた。




雪田 将志(ゆきた まさし)

クラスメイトの雪田 菜穂(ゆきたなお)の父親だった。



「龍弥くん、今日も張り切ってるね。まあまあ、お手柔らかに頼むよ。」



「あー、そうっすね。よろしくお願いします。」


どう絡めばいいかわからなくなる。

平然と装った。


フットサルのクラブでは白狼ではなく、伊藤龍弥と名乗っていた。


 苗字で呼ばれると自分が呼ばれているかを忘れてしまうため、みんなには名前で呼んでくださいといつも自己紹介していた。




高校生とは言っていたが、こんなにもピアスを開けて、髪を明るくしてても、みんな平等に過ごしてくれる。



風紀委員なんていない。


とにかく楽しめばいい。



外見って全然関係ないんだと学校よりも勉強になる。



ゴールが目の前にあったら、ボールを蹴ることに集中するだけ、ただそれだけだった。


 しっかりと、2時間ぶっ通しで汗を流した。息が上がる。スポーツドリンクが美味しく感じた。


「お疲れ様でした。」


一過性のもの。


毎回メンバーは変わる。その中で気が合えばまたよろしくお願いしますとなるが、ほとんどが今日会ってさようならの人が多い。

 携帯ゲーム機の色塗りシューティングゲームでも、1ゲームしてその次のゲームではまた別な人というような常にシャッフルされる。同じ人と組むことは滅多にない。

 フレンド登録してあえて一緒にすることも可能だが、フットサルの場合は人数が多く必要となってくる。


必ずしも全員参加できるわけじゃない。


自由参加にはそういう利点があった。



龍弥もそういうやり方が好きだった。




お互いに嫌なところが見える前に別れる。



 綺麗なままで終わる。


 楽しちゃいけないんだろうけど、友達は少ない方が信頼関係も得やすいものだ。

「明日も学校だ…。」



「龍弥くんは高校生だっけ。背も高いから、年近いかなと思ってたけど…。若いね。」



「高校生っすよ。授業真面目に受けてます。」


「君が?! 嘘でしょ、君に真面目という言葉が似合わないよ?」


「下野さーん、それどういう意味ですか?俺は至って真面目でしょ。試合で手抜いたことありますか?」


「いやぁ、でも、外見で判断しちゃいけないけど、サボってそうだもんね。」


「イメージでしょ?いや,俺,やればできる子なんで?」


「ハハハ…龍弥くん、面白いなぁ。また、都合あえば、やろうな。」



「もちろんっす。下野さんも、いい加減、彼女の1人や2人、話聞かせてくださいよ~!」

「うっさいわ。んじゃな。」

 下野は帰り支度をして、ベンチに置いていた荷物を持って立ち去った。


 龍弥の隣には滝田がいた。


「龍弥さん、高校、どうですか?俺,来年受験なんですけどぉ、受かるか心配で。」


「え? どうですかって言われても…俺にとっては、地獄だね。」


「え?地獄?」

「そう、サハラ砂漠にいるくらい、学校は殺伐としてるよ。しーんとしていて、机の上でカリカリとペンの音が響き渡っていて、みんな勉強しまくり。俺なんて足元にも及ばない。」


「え、龍弥さんって進学校に通ってるんですか?頭良いんですね?」


「え、いや、あ、あのーそういうわけじゃないんだけど。湊、冗談だって。俺の話信じすぎだよ。」


「どこまでが本当?」


「高校生ってことくらい。あとは秘密。」


「ざっくり?!龍弥さんって意地悪ですね。」



「まあな。湊はどうなんよ、学校。」



「みんな、偽善者ですよね。あっちもこっちにも良い顔して、本当の自分どこだって感じで過ごしてるやつが多くて…疲れます。俺もその1人…。まあ、いじめる奴の機嫌とるってことなんですけど。」


「そうなんだ。学校って、綱渡りしてるみたいだもんな。失敗しないようにってバランスとって、一歩間違えたら落ちる。その分,ここにいる時は楽よ。いつ辞めてもいいし、気楽にできるもんな。」


「ですね。絶対、またやりましょうね。俺も来ますから。俺,こう見えてすごいチキンで、ここに来て自信になってる感じあります。龍弥さんのおかげっす。」



「俺は何もしてないって。まあ、俺も楽しみにしてるわ。」


 シェイクハンドをする2人。
 案外気が合いそうだ。

 フットサルクラブには、週3回参加していた。

 スポーツ少年の習い事をしているようで、ちょうど良い気分転換になっていた。


ありのままの自分をさらけ出せる空間さえひとつでもあれば、心が落ち着いていた。


 

 龍弥にとって、心をかき乱されるあいつに会わずさえいれば、計画通りに高校生活が進むと思っていた。
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