スノーフレークに憧れて

第47話

「仙石線でいいんだよな?」



 龍弥は仙台駅の改札口で時刻表を
 チェックした。



 普段は電車に乗り慣れていない龍弥は
 何度も確認した。



「そんな何回も言わなくて良いよ。
 合ってるから。
 なんでも知ってるよみたいな
 素振りして
 電車とかバスとか苦手だよね?」


「うん。そう、俺、こういうの無理。
 バイクで済ませるから。
 でも今日は長距離になるから
 2人乗り危ないしね。
 あまり時間に縛られたく
 ないんだよね。」


「ほら、時間。行かないと。」


 菜穂は龍弥のシャツの裾を
 引っ張った。

 今日の菜穂の服装は
 ベージュ色の
 バルーンスリーブオフショル
 ワンピースを着ていた。
 オシャレなんて気にしたこと
 なかったのに私服に
 こんなに気を使うなんてと
 今日のために苦労していた。


 龍弥はデニムジーンズに
 濃いグレーの夏用
 テーラードジャケットを
 羽織っていた。

 男側も変な服着れないなって
 考えることだってある。

 オシャレ男子は大変だ。


 電車に乗り込んだ。


 時間的にも割と空いていて、
 座席に隣同士座ることができた。

 何故か電車には何度も
 乗っているのに新鮮だった。

 いつも混んでる時に乗っていた。

 空いてる時に座ったことがない。

 ずっと立って
 乗り続けていたことを思い出す。


 ハッと気がついた。


「菜穂?ピアスの穴開けたの?」


 龍弥は横から見て、
 菜穂が耳にアクセサリーを
 つけていることに気づく。

 龍弥のオシャレに感化されて
 自分もアクセサリーをつけようと
 思っていた。


 雑貨屋で買ったピアッサーで
 両耳穴を開けていた。


 たらんと垂れる
 ターコイズのピアスが揺れていた。


「うん、開けてみたんだ。
 どうかな。」

 髪をかきあげていう。

「意外。菜穂、
 そういうの苦手そうだから。
 でも、似合ってる。
 そうだ、
 もう一つ開けない?」


「何で?もう一つ?」


「俺の付けてるのあげるから。」

 左耳を指差して言った。
 それは龍弥が大事にしている
 両親の形見である結婚指輪をリメイクしたピアスだった。

「え…。」


「あ、もちろん、消毒するよ?
 バイ菌入ったら痒くなるもんね。
 菜穂が嫌じゃないなら。」


「消毒とかは気にしてないけど
 それって龍弥の両親が付けてた
 指輪でしょう。
 大事にしてるものじゃないの?
 いいの?私が貰って。」


「菜穂だから。
 大事にしたい菜穂だから
 持ってて欲しいんだよ。
 まあ、いらないなら
 別にいいけど。」


「貰って良いなら欲しい。
 むしろ、ちょうだい。」


 お皿のように両手を差し出した。


「あ、今じゃなくて
 菜穂がもう一つ耳に穴開けて
 このピアスを消毒したら
 プレゼントするよ。」

「えー、なんだ今じゃないの?」

「今じゃない。
 ほら、次が降りる駅だよ。」

 立ち上がって龍弥は、
 出入り口の手すりにつかまった。

 菜穂も席から立ち上がり、
 龍弥の左隣に立って
 そっと左手指に一本だけ指を添えた。

 何をしたいんだろうと考えながら
 ひらめいた龍弥は何も言わずに
 手を広げて菜穂の手を
 包み込んだ。

 そうされたかった菜穂は、
 嬉しすぎて笑みがこぼれた。


「何笑ってるの?」


「別にぃ。」


 何も言ってくれないことに
 少しイラッとして
 龍弥は左足で
 菜穂の右膝裏の足に
 膝カックンをした。

「うわっ、
 ちょ、びっくりするじゃん。」

「遊んでるだけ。」


「もう、ふざけすぎ!」


 菜穂は怒りながらも
 少し嬉しそうだった。

 電車は中野栄駅に到着した。

 水族館には駅から15分の距離を
 歩かないといけない。

 夏休みということもあり、
 親子連れで歩く人もいれば
 友達同士の集まりだろう
 女子3人組も水族館の方へ
 向かって歩いている。

 羨ましそうに
 こちらをチラチラッと見られている。


「なんか良いなぁ。
 水族館デートだって
 うちらも行きたいね。
 彼氏いないけど。」

「うん。デートいいよね。
 学校には芋っぽい人しか
 いないもんな。
 かっこいい人は 
 大体は彼女いるし。」

「そう言うの良いからさ。
 うちらは女子3人の時間
 楽しもう。」


「うん、それもそーだ。楽しもう。」


 開き直って今いるメンバーを大事にしようと誓った。


「いらっしゃいませ。
 何名様のご利用ですか?」

「高校生2枚お願いします。」

「高校生2枚ですね。
 3400円です。」

 龍弥が話す横で菜穂は財布を取り出してお金を出そうとすると龍弥の左手が断固として拒否をする。

「俺が出すから。」

「いつもおごってもらってるから
 いいよ、出すよ。」

「素直に奢られて。
 すいません、1万円で
 お願いします。」

「はい。1万円お預かりします。
 6600円のお返しです。
 お確かめください。
 こちらはパンフレットと
 チケットです。」

 龍弥はチケットとパンフレットを
 預かると菜穂に1枚ずつ手渡した。


 持っていた財布を引っ込めた。


「あ、ありがとう。」

「どういたしまして。
 ほら中に行くぞ。」

「うん。」



 2人はチケットを持って
 中へと入っていく。



その様子を遠くから見守る人がいた。


母親の車から
女子中学生と男子高校生が出て来た。



「帰りは電車で帰って来なさいよ。」


「分かったよ。」


「お土産買って帰るからね~。」


バタンと車のドアを閉めた。
 

2人は、リュックを背負って
水族館の受付に入っていく。


龍弥と菜穂は、何から先に見るかで
フロアマップを見ながら
相談していた。


日曜日ということもあって
親子連れが多かった。
< 47 / 55 >

この作品をシェア

pagetop