【完結】婚約破棄されて嫁いだ先の旦那様は、結婚翌日に私が妻だと気づいたようです
「歌が歌えないらしいけど」
「それよりロラ様に毒を盛ったってのがまずいよな」

 そんな密やかな囁きはすでにその女性の耳にも届いている。
 そう、噂の的である彼女の耳には──

(ゼシフィード様の意図はわからないけど、あなたに負けはしない。絶対に)

 エリーヌはようやく彼──ゼシフィードの元へと到着すると、そっと持ってきた招待状を見せる。

「ご招待いただきまして、光栄でございますわ」
「ああ、待っていたよ」

 そっとドレスの裾を持ってカーテシーで挨拶をする。
 腰をぎゅっと絞られた真紅色のドレスに身を包んだ彼女は、ゼシフィードのエメラルド色の瞳を強く見つめた。

(さあ、どこからでもかかってきなさい)

 エマニュエル公爵夫人としての鎧をまとった彼女は、真っ赤な唇を動かした──

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