没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~


 それまでは友人にプレゼントしたり、領地の豊穣祭で売りに出したりしていたのにあれ以降、誰かのためにお菓子を作ることが怖くなってしまって家族や屋敷の人間以外には食べてもらっていない。

 けれど、少年の幸せそうな表情は、もう一度お菓子を通して誰かを喜ばせたい、幸せにしたいと私に思わせるには充分で……。
 私は改めてパティスリーを開こうと決意した。


 最後の一枚を食べ終えた少年はふうっと一息吐くとやがてこちらの視線に気づいてはにかんだ。
「お嬢様のお菓子はとっても美味しいです。僕、こんなに美味しいお菓子を食べたのはじめてでつい夢中で食べてしまったの。……遅くなっちゃったけど、クッキーをたくさんありがとう、ございます」
「お腹が空いていたんだから仕方ないわ。気にしないで。それに美味しく食べてもらえて私も嬉しい。ところであなたの名前を聞いてもいいかしら?」

 少年は立ち上がるとぺこりと頭を下げて挨拶をしてくれた。
「僕はアーネルって言うの。お嬢様のお名前は?」
「私はシュゼットよ。あなたのことはネル君て呼ばせてもらうわね。それでこの森にはネル君一人だけなのかしら?」
「はい。僕一人だけ、です」
「まあ。ご両親は? というか、こんな夜遅くに森の中を一人でいるなんて危ないわ」
 私はネル君の答えを聞いて眉根を寄せた。

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