没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~


 婚約パーティーに集まる面々はフィリップ様とカリナ様の親族、それから二人の親しい友人たちだ。要するに私に味方してくれる人はその場に誰もいないことは確定している。
 私をやり玉に挙げることで余興になるとでも考えているのだろうか。それなら非常に趣味が悪い。

 まわりくどい嫌がらせとは思ったけど、私の名声に傷を付けてパティスリーを潰しに掛かっていると考えれば、効率は悪いけれど手が込んでいるし確実だ。
 打つ手がない状況なのでいちごとは別の果物を使ったエンゲージケーキを用意するしかやりようがない。

 ――非難は受けるだろうけど、誠心誠意最後まで依頼された仕事はやりきらないと。じゃないと余計に非難囂々になるだろうから。

 気持ちを切り替えなくてはいけないのにフィリップ様の手のひらで踊らされている気がしてやりきれない気持ちになる。
 悔しくてぐっと奥歯を噛みしめていると、厨房に青年の声が響いた。


「葬式並みに重々しい雰囲気だが、ここはシュゼットの厨房であっているか?」

 唐突に現れたのはエードリヒ様だった。本日三回目の登場に私は目を白黒させる。
「エードリヒ様こそ、どうしてまたここに?」
「私のことより、暗い表情をしているシュゼットが心配だ。悩みがあるなら遠慮せず話して欲しい」

 眉尻を下げて気遣わしげに尋ねてくるエードリヒ様に促され、事情を説明した。
 話を進めていくうちにエードリヒ様の目が鋭くなっていったのは気のせいではないと思う。だって開口一番に「あのクソ野郎が」とフィリップ様を罵ったから。

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