没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~


 もしかして、いちごを買い占めたのはフィリップ様ではなくカリナ様の方だったのだろうか。どちらにせよ彼女から喧嘩を売られていることは確かなので私は挑むように眉を上げた。
「もちろんですとも。私が腕によりをかけて作りましたのでご満足いただけると思います」
 答え終えたところで下僕が中央テーブルにディッシュカバーがされた四角い大きなトレーを置いた。大きさからしてディッシュカバーの下にあるのはエンゲージケーキで間違いない。
「どうやらケーキが到着したらしいな。自信満々のようだから、どんな仕上がりなのか確かめてやろう」
 フィリップ様は席を立つと、カリナ様をエスコートしてケーキへと近づいていく。
 下僕が銀色のディッシュカバーを取るとたちまちフィリップ様が声を荒らげた。
「おい、なんだこれは!?」
 ただならぬ声に反応して周りが一斉に視線を向ける。私も何があったのかケーキを確認すると目を疑った。


 ディッシュカバーが取り外されて露わになったエンゲージケーキは、見るも無惨な姿になっていたのだ。
 飾り付けのマカロンはすべて割られ、綺麗に絞っていた生クリームは形が崩れている。さらに本体のケーキの部分はぐちゃぐちゃにかき混ぜられて原形を留めていない。
 凄惨な光景を目の当たりにして私は呆然と立ち尽くした。

「まあっ、なんてこと!! エンゲージケーキがぐちゃぐちゃになっておりますわ!」
「一体誰がこんなことをしたんだ?」
「こんなのケーキを頼んだカリナ様を辱める行為だわ。なんて酷い」
 ジャクリーン様の悲鳴を皮切りに周囲がどよめき始める中、カリナ様がワッと泣き出した。
「ううっ、あんまりですわシュゼット様! 私がフィリップ様に愛されていることが許せなくてこんなことをなさったのですね!?」
「なっ!?」
 あらぬ疑いを掛けられて私は目が点になった。

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