没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~


 翌日もショーウィンドウの可愛さに惹かれて女性客が入れ替わり立ち替わりやって来た。

 昨日に引き続き、試食用のフィナンシェを口にしたお客様はお菓子を買って帰ってくれる。焼き菓子も生菓子も今のところ売り上げの割合は半々と行ったところで、思っていたよりも順調な滑り出しをみせている。


 ラナが会計を終わらせて包みをお客様に手渡すと皆、口を揃えて「こんなに可愛いお菓子は初めて」と笑顔になって帰っていく。
 私が店頭に顔を出すことはないけれど、小さい店内なのでその声は作業をしている厨房にまで聞こえてくる。嬉しい言葉を耳にする度に私は拳を小さく掲げて喜んだ。

 ――ここまでお客様に喜んでもらえるなんて想像もしていなかったわ。お母様にお菓子の作り方やあり方を教えてもらっていて本当に良かった。


 お母様は双子の弟と妹を産んだ後に流行病で亡くなってしまった。きっと生きていたら誰よりもお店を開くことを喜んでくれていただろうし、ひょっとしたら一緒にお店を経営していたかもしれない。
 侯爵家の厨房に立つお母様を思い出すと、もう二度と一緒にお菓子を作ることができない寂しさや悲しさが胸の奥底から込み上げてくる。

 私は亡き母を偲ぶと手に持つヘラを握り直した。今は感傷的になっている場合じゃない。

 ――マイナスな気持ちでお菓子を作ったら、食べてもらう人の気分までどんよりさせてしまうわ。みんなが幸せそうにお菓子を食べるところを想像して作らなくちゃ。

 目の前のことに集中するために、私はボウルに入っているバターと砂糖を切るようにしてヘラで混ぜ合わせていく。

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