没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~


「あら、お客様だわ。ネル君また後でね」
 半個室になっているイートインスペースから出るとお客様のもとに向かう。

「いらっしゃいませ。どうぞゆっくりとご覧になってください。何か気になることなどありましたら遠慮なく仰ってくださいね」
「実は今から義母に会いに行くんですけど、喜んでもらえそうなものはありますか?」
「こちらのお菓子は甘さ控えめでしつこくない味わいで――」
 ラナが厨房から戻ってくるまでの間は私がお客様の要望に応えなくては。
 たまには自分の作ったお菓子の魅力を伝えるのも悪くない。どんなお菓子を持って行ったら喜ばれるかああでもないこうでもないとお客様と話すのは楽しかった。

 話に熱中し過ぎていた私はネル君がイートインスペースから顔を出して、唇をキュッと引き結んでこちらを眺めていることにちっとも気づかなかった。

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