吸血鬼の旦那様は私の血よりも唄がお好みのようです ~婚約破棄されましたが、優しい旦那様に溺愛されながら幸せの唄を紡ぎます~

103 リチャードの正体が明かされます

「あ、兄上……? 貴様は一体何を言っているんだ……?」

 覇気がなくやつれた表情を浮かべるハンス。自慢の金髪の髪を右手でくしゃくしゃに掻きながら緑の瞳をパチパチと瞬きさせている。見知らぬ魔族の青年から兄上呼ばわりされた上に、何故かその青年はさも当然のように王である自らの父の隣に立ってこちらを見つめているのだから。

 それにその青年は茶色を帯びた赤の髪と金色の瞳を携え、魔族の特徴である尖った耳と細い瞳孔をしている。自分と兄弟など、そんな馬鹿なことはないとハンスは考えていた。

「ち、父上も……何とか言ってください……そんな魔族の男を隣に立たせるなどっ」

 シリウス王はハンスに冷たい視線と送りながら、溜め息を漏らした。

「浅はかだな、ハンス。もうお前の目は廃れ切ってしまったようだな」

 隣に座るアルトリア王妃もまるでその光景を見ていられない、といった様子で口元に手を添えて目を背ける。

「……は? 意味がよく……わからないのですが……?」

 シリウス王は隣に立つリチャードに視線を向ける。それに気づいたリチャードは静かに頷く。一歩前にでると右手を輝かせる。

(あれはオースティン家を出る時に見せてもらったものだわ)

 アナスタシアは今目の前で起こっていることを、オースティン家を出る前に既に見ていた。この後、どんな光景が広がるのかも理解していたのだ。ただその『仕組み』がよくわかっていなかった。

「アーヴェント様、あれは……?」

「彼は『光魔法』の使い手なんだ」

 アーヴェントの使う闇魔法と同じく光魔法は多々ある魔法の属性でも最高位に当たる属性のことだ。使い手は希少で、その力も他の魔法と違い特殊な物が多いとアナスタシアも過去に本で読んだことがあった。

「あれが光魔法……」

 リチャードは輝く右手で顔を軽く覆ってみせる。すると茶色を帯びた赤の髪は輝く金色に染まり、瞳は海のような青色へと変わる。そして一番ハンス達が驚いたのは魔族の特徴だった細い瞳孔と尖った耳が人間族のモノへと変わったことだった。

 あっという間に王の隣に立つ魔族の青年は金髪に青の瞳を携えた人間族へと姿を変えたのだ。

「これでわかってもらえましたか、兄上」

「! ……ま、まさか……お前は……レオ、なのか?!」

 声と指を震わせながらハンスは驚きの表情を浮かべていた。まさかそんなことがあるはずがないと思っていたのだろう。だが、そこにはリュミエール王家の男子が携える自分と同じ金髪の青年が王の隣に立っているのだ。ならば愚かなハンスにも答えはおのずと分かったのだ。

「五年ぶりですね、兄上。その通りです。リチャードとはシェイド国での仮初の名前。私の本当の名はレオ。レオ・リュミエールです」

(私も本当のことを聞かされた時は驚いたわ……まさかリチャードがレオだったなんて)

「馬鹿な……お前があのレオ……?! 病弱だったあのひ弱なオレの……弟だと……」

 レオは昔から身体が弱かった。そのため、ちょうどラスター公爵達が亡くなった後に遠くの療養所へ移されたとハンスは聞かされていたのだ。それが魔族の姿で現れたのだから驚くのも無理はない。

「私は五年前、アルク陛下の計らいと父上の命によりシェイド王国へと渡ったのです。身体の治療を兼ねて、二つの国のことを学ぶための留学でした。そして身分を隠すために光魔法の力を使い魔族の姿で暮らしていたのです」

「あのレオが光魔法の使い手だと!? 魔法も碌に使えなかったはずだ」

「シェイド王国に渡ってから習得したのですよ、兄上」

 今まで馬鹿にしていた自分の弟が、まさかそこまで優秀になっているとはハンスは思いもしなかったようだ。

「ち、父上! オレは何も聞いておりませんがっ?!」

 慌てた様子でハンスが声を上げる。だが、シリウス王は冷たい視線を向けるのを止めることはなかった。

「お前には秘密にしていたのだ。お前が昔から病弱だったレオのことを目の敵にしていたのはわかっていたからな」

「……っ!」

 ハンスは開いた口が塞がらなかった。シリウス王は言葉を続ける。

「お前は自分が王太子であるという身分をいいことに、どんどん自分勝手に物事を行うようになっていた。父である私がそのことを諫めようとしたが、お前はまるで聞く耳を持たなかった」

 アルトリア王妃は瞳に涙を浮かべながらシリウス王の言葉を黙って聞いていた。

「だからこそ、このリュミエール王国の未来を案じた私は身体の療養を兼ねて、レオをシェイド王国に留学させたのだ。アルク陛下も私の考えに賛同してくれた」

「そ、そんな……」

 ハンスは只々、驚きの事実に口を開いているしかなかった。

「シェイド王国での療養によって身体もすっかりよくなった私は国政について、アルク陛下や王太子であるライナー殿下、そしてリズベット王女から学ぶ日々を過ごしていたのです」

 レオの言葉にシリウス王が静かに頷く。そして青ざめた顔をしてこちらを見つめるハンスに言葉を掛ける。

「……ハンス。今日、この日を持ってお前から王太子の座を剥奪する」

「な!?」

(陛下……)

 アナスタシアはそっと青と赤の両の瞳を閉じた。彼女にはそんな気がしていたのだ。アーヴェントも同じようにシリウス王の言葉を聞いていた。

 その一言で王の間は騒然とする。これがリュミエール王国の将来を見据えた言葉だということをこの後シリウス王は語るのだった。
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