吸血鬼の旦那様は私の血よりも唄がお好みのようです ~婚約破棄されましたが、優しい旦那様に溺愛されながら幸せの唄を紡ぎます~

21 決して羨ましいわけじゃないぞ

 夕食後に行われたアーヴェントの自室でのアナスタシアとのお茶会は無事に終わりを迎えた。ラストがアナスタシアを寝室まで見送っている間にアーヴェントは自らの寝室に向かう。

 今までアーヴェントの自室、と言っていた場所は来賓を迎えたり、残った仕事をこなす部屋という役割を担っているのでどちらかというと執務室、と言ったほうが間違いはないだろう。

「はぁ……今日のアナスタシアも綺麗だったな」

 寝室についたアーヴェントは寝る用の衣服に着替えるとベッドに横になりながら、先程まで話をしていたアナスタシアのことを考えていた。自然と言葉が口から出る。

「アナスタシア様は段々とこの屋敷にも慣れてきたようですし、表情もとても明るくなってきていますからね」

 ふとゾルンの声が聞こえてくる。ビクッと身体を大きく揺らして起き上がり、扉の方を振り返るとこちらを見ながら丸眼鏡の位置を直すゾルンの姿があった。

「ゾルン……いきなり主人の寝室に入ってくるのはどうかと思うぞ」

「これは失礼致しました。お声掛けもノックもしていたのですが、アーヴェント様の反応がなかったので確認も兼ねて中に入ってしまいました」

 そんなに自分の世界に入っていたのか、とアーヴェントは絶句する。そんな彼にゾルンが語り掛けてくる。

「フェオルにはよく言い聞かせておきました。と、いってもあの性格ですから効果はそんなにないでしょうけれどね」

「ああ、でもアナスタシアにお茶の相手に指名された時のフェオルの顔は見たかったな」

「あの子の存在をお許しになられたアナスタシア様は、やはり素晴らしいお方だと私共は思っております。まあ、まだ数名会っていない者もおりますが」

 その言葉にアーヴェントはフッ笑みを浮かべながら口を開いた。

「お前達が彼女のことを気にいってくれるのは俺も嬉しい。最初はどうなるかと思ったが、俺の杞憂だったようだ」

 アーヴェントは俯き加減で何か心配していた素振りをみせるが、結果が良いモノであったためにその後穏やかな表情を浮かべていた。その様子を見て、ゾルンも口を開く。

「アナスタシア様は私とフェオルとでお迎えに上がった時から真摯に向き合ってくださいましたからね」

「ああ、そう聞いているよ。今でもその時の話をすると、とても楽し気に話してくれているしな」

「それにナイトもようやくアナスタシア様と話せたことを喜んでおりました。より一層腕によりをかけてお二人の為に美味しい料理を作ると、息まいております」

「それは良かった。自分では恥ずかしくて言えないだろうがな」

 フフフと、アーヴェントとゾルンが揃って笑う。すると何かを思い出したようにゾルンが語り掛ける。

「そういえば、夕食の後アナスタシア様を執務室でのお茶会にお誘いしたそうですね」

「……話が早いな。まあ、大方廊下で会ったラストに聞いたんだろう?」

「はい。その話をしてくれた時の彼女はかなり気分が良いように見えました」

 その時のラストの反応が手に取るように思い浮かんだアーヴェントは軽くため息を吐く。それを見ていたゾルンが言葉を続ける。

「アナスタシア様も今日のアーヴェント様はえらく積極的だな、とお思いになったのではないですかね」

「ま、まあ、そうかもしれないな」

 今日のやりとりをアーヴェントは思い出す仕草をする。自分の言葉は後から考えると少し恥かしいものだったかもしれないと感じている表情を浮かべていた。

「やはり自分がいない間にナイトやフェオルと仲良くされていたことが羨ましかったのですかな。フェオルからはお膝の上に横にならせてもらった、とも言っていましたから」

 アナスタシアやラスト、しまいにはアーヴェントにも見られていたあの時のことを、寝てしまっていた、と言わない所がフェオルらしさを感じる。いや、それよりも今はゾルンの何やら棘がある言い方の方がアーヴェントには気になったようだ。

「べ、別に羨ましいなんて思っていないぞ」

「そうでしたか。私の思い違いだったようですね」

「た、ただ、その……フェオルが心地よさそうにしていたなぁと……少し気になっただけだ」

「アーヴェント様もアナスタシア様と同じで、素直ですな」

 ハッと我に返ったアーヴェントは今言ったことの撤回を求めるが、ゾルンには笑ってかわされてしまった。バツが悪そうな顔を右手で掻きながら、呟く。

「やはり彼女の両の瞳に見つめられると自分の気持ちを抑えきれなくなってしまう時が時折あるんだ……」

「だから積極的にお誘いになることもある、と。ラストが聞いたら喜んでしまいそうなお話ですな」

 ふむ、とゾルンは顎の近くに白い手袋をはめた右手を添えながら答える。アーヴェントは目を細めながらゾルンに向かって念を押す。

「……このことはラストには絶対言うなよ、ゾルン」

「もちろん、承知しております」

 そこまではとても和やかな空気に包まれていた。ゾルンも柔らかい表情を浮かべていた。

「……それで、ラストではなくお前が此処に来たということは……何か話があったんだろう?」

 アーヴェントは先ほどまで、浮かべていた穏やかな表情から一瞬にして真剣な表情へと変わる。ゾルンも同様に丸眼鏡の位置を直すと表情が変わっていた。

「今日、リュミエール王国の情報筋からミューズ家に関する話が届きました」

「話してくれ」

「はい。ミューズ家が所有する商隊が……」

 アーヴェントはゾルンの報告を終始、真剣に聞いていた。その話は数分で終わりを迎える。

 話が終わってゾルンが部屋から去った後はアナスタシアを想いながら、アーヴェントは眠りに落ちたそうだ。
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