吸血鬼の旦那様は私の血よりも唄がお好みのようです ~婚約破棄されましたが、優しい旦那様に溺愛されながら幸せの唄を紡ぎます~

58 メイと久しぶりに話をします

「そんなことがあったとはな……」

「リチャード、本当にありがとう」

(まさかまたこうして、メイと会えるなんて……夢を見ているみたい)

 リチャードから一連の話を聞いたアーヴェントは顎のあたりに手をあてながら呟く。アナスタシアはメイを助けてくれたこと、連れてきてくれたことに対してお礼の言葉を口にする。

「いいんだよ。ボクがやりたくてやったことなんだから。それじゃ、メイ。改めてご挨拶をしなくちゃね」

「そうでしたっ」

 リチャードの丁寧でわかりやすい説明に任せていたメイだったが、ハッとした表情を浮かべながら椅子から立ち上がる。しわが寄ったドレスではあるが、カーテシーと共に一礼する。

「お初にお目にかかります、オースティン公爵様。メイ・クーデリアと申します」

「アーヴェント・オースティンだ。宜しく、クーデリア嬢」

 挨拶が終わるとリチャードがメイに席につくように合図をする。慌てながらメイは再び椅子に腰を下ろした。その様子を見つめるアナスタシアの喜びの表情を見たアーヴェントは柔らかく微笑むのだった。

「良かったな、アナスタシア」

「はい。アーヴェント様」

 そんなアーヴェントに対して、アナスタシアも笑顔を浮かべながら返事をする。そんな二人をメイはじっと見つめていた。

「リチャード。クーデリア嬢はオースティン家でしばらく預かろうと思う。クーデリア子爵家には俺から手紙を送ろう」

「そうしてくれると助かるよ、アーヴェント。ボクはこのことをライナー達に報告しなくちゃいけないから、そっちは任せてくれ」

 とんとん拍子にメイの受け入れが決まる。すると先ほどから四人の会話を見守っていたラストがうずうずし始めていた。それも限界を迎えたようで、ずいずいとメイの前にやってくると目をキラキラさせながら口を開いた。

「メイ様、まずはお身体を綺麗にしてお召し物も変わりのドレスをご用意させて頂きますねっ! アーヴェント様、宜しいですよねっ?」

「ああ、ラストに一任するよ」

「にゃ!? え、えっと……私、別に……っ」

「遠慮なさらずに、さあお立ちになって。はい、参りましょうねっ!」

 ラストが強引に手を引いていく。子猫のような表情をメイは浮かべてアナスタシアに助けを求める。

「あ、アナ様ぁ……っ」

「メイ、こうなったラストには勝てないわ。気にしなくていいから、綺麗にしてもらってきてね」

 以前、自分も経験したことを思い出したアナスタシアは苦笑しながらメイを見送る。ラストに連れられていくメイの心許ない、か細い声が廊下から部屋に響いていた。

(強引ではあるけど、ラストに任せておけば安心ですものね)

「ボクはメイが綺麗になった所を見てから帰ろうかな」

「そんなこと言わずに、昼食を一緒にとろう。準備させるよ」

「ありがとう。それじゃボクもナイトの料理を頂こうかな」

 王城では真面目で誠実な印象を受けていたリチャードだったが、爽やかで明るくメイと接している所をみてアナスタシアの中の彼に対しての印象がまた変わっていく。

(メイをとっても気遣ってくれているのね。ちょっと意外かも……)

 それからしばらくの間、三人は王都での準備の話などをしていた。すると、お風呂と着替えを終えたメイがラストに連れられて部屋に戻って来た。ラストによる髪の手入れと着付けを受けたその姿は先ほどとは比べられないほど、綺麗になっていた。メイは照れながら一礼してみせる。

「メイ、とっても素敵よ」

「ああ、見違えたな」

 二人の言葉に照れたメイは俯きながら呟く。

「私、こういうのは似合わないと思うんですよね……」

「そんなことないよ、メイ。とっても綺麗だよ」

「リチャードまでそんなこと言わないでください……」

 ラストに手を引かれたメイが再び席につく。落ち着かない様子でもじもじしているその様子はまるで子猫のようでアナスタシアは自然と笑みを浮かべていた。アーヴェントはそんなアナスタシアに声を掛ける。

「アナスタシア、これから俺はリチャードと話をする。二人もゆっくり話をしてくるといい。昼食の時間になったら食堂へおいで」

「お気遣いありがとうございます、アーヴェント様」

 ラストもアーヴェントの言葉に頷く。アナスタシアは立ち上がり、一礼するとメイに手を差し出す。きょとんとしたメイがこちらを見ていた。

「メイ、私の部屋に行きましょ。そこでゆっくりお茶を飲みながらお話したいの」

 その言葉を聞いたメイはパァッと明るい表情を浮かべながら、アナスタシアの手を取る。その顔は嬉しさで溢れていた。思わず泣いてしまうのではないかという程、目を潤ませていたのだ。

「はいっ! 是非ご一緒させてください、アナ様っ」

 二人はまるで姉妹のように見えた。厳密にはメイの方が年上なのだが、そんなこと気にならないほど、二人は仲が良いのだというのがアーヴェントやリチャードにも伝わっていたのだ。ラストも二人に付いていき、部屋を後にする。

 アナスタシアの部屋に通されたメイは懐いている子猫のように色々な話をしたくてうずうずしているように見えた。余程、アナスタシアに会えたことが嬉しくて仕方ないのだろう。

「メイ、改めて会えて嬉しいわ。まさかまた会えるなんて思っていなかったから……」

「私もですぅ。またこうしてアナ様に会えるなんて、夢みたいですっ」

 メイはうっすらと目に涙を浮かべていた。そんな二人にラストが優しい言葉をかけながら、お茶を淹れたカップをテーブルに用意してくれた。

「本当にお二人は仲がよろしいんですね」

「私はアナ様が小さい頃から身の回りのお世話をしていましたのでっ」

 キリッと胸を張りながらメイがラストに答える。お茶を一口、口に含んだ後、アナスタシアは穏やかな表情を浮かべながらメイを見つめていた。

(本当にメイなのね……嬉しくて涙が出そうになる……)

 そんなアナスタシアの視線に気づいたメイが笑顔で言葉を口にする。

「それにしても、久しぶりにアナ様の笑ったお顔を見られてメイは幸せですっ」

「私、そんなに笑っていたかしら……?」

 恥じらった様子でアナスタシアが顔を赤めながら口元に手を添えていた。メイは言葉を続ける。

「はい。オースティン公爵様とお話している時のアナ様は昔を思い出させてくれる程、とても幸せそうに笑っておいででした。メイはそれが嬉しくてなりませんっ」

 メイはポロポロと大粒の涙を目から溢しながら笑っていた。

「メイ……」

「メイはアナ様が……心配で仕方ありませんでした。嫁ぎ先でまた虐げられているんじゃないかと……でもそれが杞憂で良かったですっ。こんなにも幸せそうなアナ様を見られるなんて……私…私……っ」

(別れてから私も一度もメイのことを忘れたことはなかった。メイも同じ気持ちでいてくれていたのね……嬉しい)

 思わず堪えていた想いが溢れたアナスタシアの青と赤の両の瞳からもポロポロと涙が溢れ出す。ラストは柔らかな表情を浮かべながら二人にそっとハンカチを差し出すのだった。

「ありがとう、ラスト……」

「ありがとうございますっ」

「いえいえ。お気になさらないでください。今はお二人の再会を私も祝わせて頂きますわ」

 お茶のおかわりをそっとカップに注ぎながらラストが明るく声を掛けてくれた。それからアナスタシアとメイはお互いのこれまでのことについて話をして盛り上がる。泣いた後はお互い笑顔で楽しく話をすることが出来た。
 
 結局、昼食の時間まで話続けていた。まだまだ二人は話したりないようにラストには見えた。

 その後、アーヴェント達と食堂で合流したアナスタシア達はナイトの美味しい料理に舌鼓を打ちながら話に花を咲かせるのだった。
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