『執愛婚』~クリーミー系ワンコな部下がアブナイ男に豹変しました

金曜日は……。

「はい、大丈夫です」

きっと、八神くんだって分かってくれるはず。
部長から直々にお願いされたんだもの、さすがに断れない。
部長の用事が終わってから、八神くんと会えばいいよね?

ほんの少し後ろめたい気持ちと、仕事を蔑ろにできない気持ちが複雑に交差する。

「それと、八神くんから移動願が出てるけど、聞いてるかしら?」
「……はい、本人から」
「元々、営業志望じゃなかったから、この機会に元々の志望部署へと働きかけもあるんだけど」

営業志望じゃない?
初めて聞いた。
というより、彼とそんな話一度もしたことがない。
私はてっきり、営業が好きなのとばかり……。

「あら、こんな時間。呼び出しておいてごめんなさいね、小沢興産の社長と会食が入ってて」
「あ、はい」
「それじゃあ、金曜日の十七時に。場所は後でメール入れるわね」
「はい、分かりました」

自席に戻り、手帳を開く。
金曜日の予定を追加記入し、ほんの少しだけモヤモヤっとした気持ちになる。

毎日一生懸命に仕事をしていて、向上心も高めで。
いつだってムードメーカーで、誰にでも人懐っこくて。
取引先にも評判がよくて、実績もしっかりと残してる彼のやりたいことって……?

想いもしなかった部長の言葉に、心の中が掻き乱されている気がした。

私が見て来た彼は、本当の彼じゃないのかな……?
やりたい仕事だったら、もっともっと輝いて楽しそうにしてたんじゃないかと思えて。

そりゃあ、やりたい仕事に就ける人なんてごく一握りだっていうのも分かってるけれど。
自分がやりたい事をしているから、そこら辺の感覚が完全に麻痺していた。

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