『執愛婚』~クリーミー系ワンコな部下がアブナイ男に豹変しました

一度失敗してるから、“結婚”に対して後ろ向きな私の不安要素を彼は優しく解いてくれる。
こういうさりげない思いやりが、傷だらけになっていた私の心を癒してくれたんだ。

もう誰も愛せないと思っていたのに……。

「私、寝相悪いよ?」
「大丈夫。毎日俺がぎゅっと抱き締めて寝るから」
「いびきや寝言や歯ぎしりするかもよ?」
「全然平気。ってか、今まで一度も気になったことないし。俺の方がガーガーいびき掻いてんじゃない?」
「……どうだったかな?」
「フフッ」

戸惑う私を優しく待ってくれている。
私が、自分の意思で決断できる時を。

「検査結果伝えたと思うけど、健康だとは言えないよ?」
「人間生きてれば、どこかしら悪いところが一つくらいあるよ。健康そのものみたいな人生送ってたって、事故に遭うかも分からないし。そんなこと気にしてたらキリがないよ?」
「でも、結婚しても子供ができないかもしれないじゃない。そしたら、会社を継げる人がいなくなっちゃうじゃない」
「別にうちの会社は世襲制じゃないよ。俺が社長になったとして、子供に継ぐ気がなかったり、能力がなければ継がせないし。そもそも、子供が欲しくて璃子さんと結婚したいわけじゃないよ」
「っ……」
「毎日ずっと見てたいし、俺の隣りで寝てて欲しいし、……俺が璃子さんの傍にいたいんだよ」
「っっっ」
「もう迷う理由は何もないでしょ」

彼は狡い。
いとも簡単に逃げ道を塞ぐ。

五歳も年下なのにいつだって包容力があって。
私が動揺することも焦ることもお見通しで。

私から彼の胸に飛び込むように仕向けて来る。
もうっ、本当に手に負えない。
お手上げだ。

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