『執愛婚』~クリーミー系ワンコな部下がアブナイ男に豹変しました

五つも年下の子に諭されてしまった。
彼の言う通りなのかもしれない。
だけど、それでも心の中がスッキリと整理がつくものでもなくて。

「結婚したからHしないといけないわけじゃないですよね?事情があって、そういう行為自体ができない人だっているわけだし」
「……」
「プラトニックなラブだって成立するわけだから、お互いにそれが理解できるならそれでいいじゃないですか」
「……」
「その男が、ただ単に先輩とは縁がなかったというだけで」
「……ん」
「もしかしたら、別の人なら、先輩が言うその欠落した部分ってのを埋めて、丸ごと愛してくれる奴がいるかもしんないし」
「……」

頭では理解できる。
できるんだけど、何かが引っかかる。

「もう三十歳目前だし、一から恋愛して先のことを考える気力がないというか。正直、すんなり割り切れるほど余裕がなくて」

ここまで話して保留にはできない。
今夜食事に誘ったのだって、結構勇気が要った。

「んじゃあ、試しに付き合ってみません?俺は別にそんな小っちぇこと気にならないし」
「……」
「酒癖悪かろうが、いびきが酷かろうが、料理や家事ができなくたって、全然気にしませんから」
「……」
「優良物件ですよ?俺」
「っ……」
「絶対浮気はしないし、借金はないし、もちろん暴力も振るわない」
「……」
「今日、小耳挟んだんですよね」
「?」
「社食で広報部の人が、先輩のこと狙ってるって」
「……冗談だよ」
「他にもいますよ?先輩が知らないだけで。美人だし、仕事はできるし、遊び目的の奴もいるかもだけど、先輩結構人気なんで」

お世辞だってのは分かってる。
だけど、向けられる視線があまりにも真剣すぎて……。
十秒ほど、無言で見つめられた、次の瞬間。

「――――俺にしとけよ、……後悔させないから」

頬杖をついて送られてくる視線が、あまりにも色気があって。
不覚にもドキドキとしてしまった。

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