可哀想な皇太子殿下と没落ヒヒンソウ聖女は血の刻印で結ばれる
「ソソ。」



しばらくしてから俺の背中にチチの低い声が聞こえた。



それに俺は振り向くことが出来ず、ルルを抱き締め続けたままでいた。



そんな俺の目の前にチチが膝をつきルルを優しい顔で見下ろしている。



「今度は間に合ったのか。
最善を尽くしたな、よくやった。」



娘が死んでしまったのにそう言って、ルルの頭を優しく撫でたチチ。



「でも、父親として言っておく。
それは懸命な判断ではなかったぞ?」



そう言って・・・



チチはその目から少しだけ涙を流した。



「強く強く強く、どこまでも強く生きたな。
でも向こうで待ってろ。
次の人生ではもっと長く生き抜けるように俺が訓練してやる。」



魔獣との戦いで死んでいった人間達にチチは必ずそう伝える。



本当だったら王都で暮らしていたはずの娘がこんな場所で死んでしまったのに、チチはそんな言葉を掛けている。



「俺が厄災を呼んだ・・・俺のせいだ・・・。
ルルが死んだのは俺のせいだ・・・。
普通のユンスではなかった・・・。
統率を取り指揮を取っているユンスがいた。
まるで騎士のようだった。
第1騎士団のアルデの砦の騎士のようなユンスに見えた。
そんなユンスが現れ、そして俺を守ったルルが死んだのは俺のせいだ。」



カラカラに乾く口の中。
それでも一気に喋った俺にチチは妖しく笑った。



「どんな厄災よりも強くなれ、ソソ。
そうすればその黒髪なんて何も恐れることはない。」



チチがそんなことを言った時、俺達の周りに多くの人間達が・・・インソルドの村の人間達が武器を持ち集まってきた。



ルルが死んでしまっているのに誰1人泣くことはなく、その全員が力強い目で俺達のことを見詰めている。



インソルドでは誰が死んでも誰も泣かない。
死ぬことは悲しいことではないから。
次の人生でも必ず会えると、昔からそう教育されてきているから。



でも、俺の黒髪持ちのせいで王都を離れこんな場所で死んでしまったルル。
皇子とはいえ黒髪持ちの俺を守る為に死んでしまったルル。



俺は許せなかった。



俺は俺を許せなかった。



俺は俺の存在を許せない・・・。



許すことなんて出来ない・・・。



そう強く思い、地面に転がっていたルルのナイフを手に持ち・・・



そして、自分に向かって突き刺した。
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