婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
「そうだ、面白いものを見つけたんだ」
しばしの無言のあと、出し抜けにレイが立ち上がったかと思うと、奥にある執務机の上から一束の書類を持ってきて、わたしの目の前に置いた。
「……これ、なに?」と、まだ気分が沈んでいるわたしは無関心に尋ねる。
「今日手に入れたんだ。違法競売の顧客リスト」と、レイはニッと笑った。
「えっ!」わたしは俄然興味が湧いて、眼前の書類を手に取る。「見ていいの? 機密情報じゃないの?」
「除隊予定の一兵卒に見られてもなんの問題もないさ。さぁ、どうぞ」
「ありがとう……!」
わたしは彼に嘘をついていることに申し訳ないと思いつつも、好奇心に負けてその書類を開いてみた。
これはいい情報だわ。もし、アングラレス国内の貴族や商人が顧客にいたとしたら摘発できるものね。アンドレイ様に素晴らしい手土産ができそうだわ。
でも、次の瞬間、わたしは背筋が凍った。
顧客リストの中にはしっかりと「アンドレイ・アングラレス王子」と記されていたのだ。