婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜

24 気付かない二人

◆ ◆ ◆




「いやぁ~、オディール嬢はとっても綺麗だったなぁ~」

 レイモンドは上機嫌だった。
 ついに念願だったオディール・ジャニーヌ侯爵令嬢との対面を果たしたのだ。

 彼は長い間心待ちにしていた。早く本来の身分同士で彼女と相見えたい。そのときの彼女の驚くであろう顔をずっと見たかったのだ。
 その願いがやっと叶ったものだから、歓喜に満ちていたのだった。

 夜会が終わって執務室で残った仕事を片付けているこの瞬間も、彼はずっと今夜のオディールのことを側近に話していた。

「あれは可笑しかったなぁ。彼女の鳩が豆鉄砲を食ったような顔……ぷぷっ」

「あー、そうだな。お前のせいでオレは国王陛下から大目玉だったぜ」

 フランソワがペンを走らせながら無表情で答える。国王は王太子が接見の場で吹き出したことを苦々しく思ったようで、「愚かな王太子を教育し直しておけ!」と、なぜか彼がお説教を受けたのだった。

「それは災難だったな。ま、頑張れ」

「誰のせいだと思ってるんだ!」と、フランソワは抗議するがレイモンドは聞いていなかった。

「次はどうやって驚かせてやろうかな……」彼は仕事そっちのけで頭の中はオディールのことでいっぱいだった。「あの鳥に手紙でも持たせるか……。いや、やっぱりあれかな? あれだよな!? 絶対あそこに来ると思うし」
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