婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜



「侯爵令嬢、大丈夫か?」

 そのとき、慌てた様子でルーセル公爵令息が部屋の中に入って来た。
 そして、

「申し訳なかった!」

 わたしの前で深々と頭を下げた。

「公爵令息様、頭をお上げください!」

「いや、完全にこちら側の不手際だ。帝国からの刺客の侵入を許してしまい、あまつさえ貴人であるあなたに怪我を負わせてしまった……。本当に済まなかった……!」

「いえ、わたしが単独で動いたことにも非の一端はありますので……。こちらこそ、勝手な真似をして申し訳ありませんでした」

「いや、侯爵令嬢に非はないさ。後日、アングラレス王国にも国として正式に陳謝するつもりだ」

「そんなに事を大袈裟にしなくても宜しいのに……。暗殺なんて珍しくないですわ。わたしでさえ、過去に何度か襲われかけたことがありますし、王太子殿下なら日常茶飯事でしょう」

「それでもレイの気が済まないよ。あいつは酷くショックを受けているようだから」

「その……殿下は大丈夫なのですか? 倒れる直前にかなり取り乱しているように感じたのですが」

「あぁ、今は落ち着いている。心配掛けて悪いね。もうすぐこっちに来るから、話は直接あいつから――」

 そのとき、扉をノックする音が聞こえてきた。

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