婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜

 レイは頭を振る。

「いや、王宮の警備を怠った自分の落ち度だ……。もし君になにかあったかと思うと、僕は……っっ…………!」

 彼の組んでいた両腕が微かに震えていた。

「レイ、あのときも取り乱していたけど……過去になにかあったの?」

 わたしは、意を決してレイに尋ねた。あのときの状況から鑑みると、きっと彼にとって聞かれたくもない嫌な思い出なのだろうとは思う。
 でも……もっと彼のことが知りたくて、自分の気持ちを抑えられなかった。
 わたしのことを親友だと言ってくれて、ヴェルを通して陰で励ましてくれて……生まれて初めてわたしのことを褒めてくれた彼の力になりたいと、心から思ったのだ。

「っつ……」

 レイは一瞬目を見開いて、悲痛な表情を浮かべた。それは、いつもの飄々とした彼とは掛け離れた、泣いている子供のような痛々しい様相だった。

「あ……話したくないのなら――」

「僕のせいで」

 レイはまっすぐにわたしの瞳を見る。濁ったような悲しみが彼の紅い瞳を覆っていた。

 彼は一呼吸してから呟く。


「僕のせいで……二人の令嬢が…………命を落としたんだ」
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