婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜

 フランソワは為政者としてのレイモンドのことを信頼していた。だが我が主はジャニーヌ侯爵令嬢のこととなると、どうも暴走し始めるようだ。具体的に言うと、馬鹿になるのだ。
 これは側近である自分がしっかりと彼の手綱を握らなければ、と気を引き締める。

 一方、レイモンドは笑ってはいたものの、内心は物凄くつまらなかった。心臓にグサグサと棘が刺さった気分だった。
 オディールとアンドレイが二人並んだ姿を見ると、ムカムカした黒いものが腹の底から込み上がって来た。不愉快で仕方がない。早く……早くあの二人を引き剥がしたくてたまらなかった。

 会えない間にオディールへの想いは肥大するばかりで、本当は彼女を抱き締めたかった。
 だが、自分は隣国の王太子。愛する人を守るためにも今は我慢のときだと、何度も自身に言い聞かせていた。


 それぞれの思惑を抱えながら、短い夜はすぐに明ける……。
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