婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜


「どういうこと……でしょうか?」と、わたしは静かに彼に訊いた。

「どういうこと、だと?」アンドレイ様の眉が微かに上がる。「それはあちらにいるレイモンド王太子殿下がご存知ではないのか?」

「王太子殿下が、なにか?」

「とぼけるな! お前と王太子殿下が不貞を働いていることは調べがついている!」

 にわかに会場中がざわめいた。我が国の王子の婚約者と隣国の王太子の浮気なんて、大スキャンダルである。それはもう、両国間の関係に決定的なひびが入るくらいの……。

「私が、なんだというのだ?」

 気が付くと、レイがルーセル公爵令息を伴ってわたしの側まで来ていた。二人とも険しい顔をしてアンドレイ様を見ている。

「はっ」アンドレイ様は鼻で笑って「私が知らないと思っているのですか、殿下。こちらは証拠も押さえてあるのですよ」

「証拠?」と、レイは不快そうに顔をしかめながら首を傾げた。

「わたしと王太子殿下の間に疚しいことなど一つもありませんわ」

「とぼけても無駄だ、オディール。現にお前は色仕掛けで王太子殿下に近付いて、ついには籠絡した。そして立場を利用してローラント王国の軍事情報を得ているな? ……ジャニーヌ家の利益のためにな!」
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