婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
「では、行って参りますわ」
「お気を付けて、侯爵令嬢」
「お気遣いありがとうございます、伯爵」
「絶対に正体が知られることのないように」
「分かっていますわ」
「好奇心に駆られて馬鹿な真似をしないように」
「こっ、子供じゃありませんから!」
「はぁ~~~、不安だ……」
「もうっ、大丈夫ですって」
「無理をしないでくださいね」
「承知しましたわ」
「……本当に分かってます?」
「分かっていますって!」
「駄目だ、心配すぎる……」
「もうっ! いい加減にして!」
スカイヨン伯爵との不毛な攻防のあと、平民の恰好のわたしは大使館を発った。
伯爵が苦笑いを浮かべながら見送ってくれる。彼の腕の中でヴェルも「ピー!」っと、挨拶をしてくれた。
わたしの潜入捜査が決まってから、スカイヨン伯爵からたくさん手解きを受けた。
彼にも大使としての仕事があるので「もう大丈夫よ」って言っているのに「王子殿下の婚約者を危険な目に合わせるわけにはいきませんので」って、毎日付きっきりで教わったわ。
お陰で自信を持って挑むことができる。
目指すは国境付近のダイヤモンド鉱山。
初の任務、必ず成功させてみせるわ!