婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜
レイモンドの顔が微かに曇った。
罪悪感で胸が傷んだ。彼はダイヤモンド鉱山で「レイ」として「オディオ」と過ごして以来、すっかりオディールに友誼を感じていた。
だから彼女を騙すような真似をして、自分は最低な人間だと良心の呵責があったのだ。
フランソワはそんな彼の様子を興味深く眺めてから、
「それで、アングラレス王国と本当に戦争に発展したらどうするつもりだ?」
「先に仕掛けてきたのは向こうだ。それに、仮に戦が始まっても舞台はダイヤモンド鉱山のみになるだろう」
「ま、そのつもりでアングラレスの王子も鉱山の情報を侯爵令嬢に収集させたんだよな」と、フランソワは眉根を寄せる。彼も婚約者を駒にするようなアンドレイに対して憤りを感じていたのだ。
「そのためのフェイクだよ」レイモンドはしたり顔をする。「ダイヤモンドの産出量などの情報は盛ってある。当然、今後の予測もだ」
フランソワは一瞬だけ目を剥いたあと、ニヤリと悪い顔をした。
「ほう……。じゃあ、あのことは伏せているんだな?」
「もちろん。あそこのダイヤモンドは枯渇しつつあって、来年には鉱山を閉鎖をすることは一切触れていない。むしろ、これからもっと採集できるだろうと記載しておいたよ。桁外れの金額とともにな」
フランソワはくつくつと笑って、
「本当、お前っていい性格しているな。じゃあ当然、あの山の奥のこともだんまりか?」
「当たり前だろ。あの情報はまだ国内でも非公開だからな」