彼に潜む影

愛佳の元に事故の知らせが入ったのは、日曜日の夜のことだった。

その日、基治は弟の鷹治(たかはる)とふたりで父親の墓参りに出かけていた。基治の運転で帰宅していた帰り道、高速道路でわき見運転をしていたトラックが追い越し車線を跨いで基治達の車の前に突然割り込んできた。

急ブレーキをかけたが止まり切れず、基治達の乗った車はトラックに衝突。そのあとに追随していた車数台を巻き込む玉突き事故になり、基治と鷹治は意識不明の重体で病院へと運ばれた。

幸い、二人とも一命を取り留めたが、治療を終えてもどちらも目を覚まさない。

絶望的な気持ちで日々を過ごす愛佳に「基治が目覚めた」と連絡があったのは事故から三日後のこと。知らせを受けた後は、しばらくのあいだ涙が溢れて止まらなかった。

けれど、ひさしぶりに再会した基治の反応が事故の前とは少し違うように見えて、愛佳の足が病室の前で震える。

もしも基治さんが、事故のせいで私のことを忘れてしまっていたら……。基治を見つめて顔を強張らせていると、彼が見慣れた優しい表情で愛佳に笑いかけてきた。
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