溶けた恋

25

「羽田空港、21:30着が取れました。今から空港向かいます。迎えよろしく!」

1時間後、梓馬からラインが鳴った。
企画は中断してしまうのだろうか…?迷惑、、かかってるよなぁ。

そんな風に考えるが、そもそもフライト中はラインが繋がらないし、どうせもう飛行機取ったなら良いかと思い、割り切って梓馬の到着を楽しみに待つことにした。


羽田空港なんて、一人で行ったことがない。
京急線では冬子の地雷系ファッションが浮いていて、電車に乗ってきたお婆さんからは二度見されたりしたが、そんなのは気にならなかった。


今日の夜、梓馬さんに会える……!


その事実があるだけで、
学校であった嫌なことも
ママが受験で私をコントロールしようとしてきても

全然気にならなくて、むしろ全てどうでもよくて、ワクワクした気持ちと、苦しくなるほどの胸の高揚感で、頭もお腹もいっぱいになった。





「おい梓馬、お前、何しよっとん?タイに来てから全然横断進んどらんけん、はよー進めんと、一生ここで大道芸やって企画終了になるぞ??せっかくここまで来たのに、視聴者の信頼も失うことになるぞ…?」

天然の櫻井が珍しくマトモな事を言って梓馬を諭した。


「迷惑かけてゴメン…!この通りだから!!てゆーか、明日また帰ってくるけん、、一日だけ、ほんまに時間下さい!みんなにも謝っとくけん、、ゴメン!」

梓馬が一度決めたら引かないと、櫻井も他の仲間も分かってはいた。
また、こんなふうに振り回されるのは毎度のことなので、もう慣れてもいた。

(まぁ…、明日は突然のオフやけん、昨日のソフィアちゃんと、、遊びにいくのもありかもな。)

櫻井は渋々梓馬を見送りながら、妄想を膨らませた。


櫻井や仲間達に謝り倒し、梓馬は空港へ急いだ。


冬子のいつもと異なる様子に違和感を感じ、突発的に飛行機を取ってしまった梓馬だが、純粋に2週間ぶりの冬子との再開に胸が踊る。


6時間のフライトがとてつもなく長く感じた。





羽田空港第3ターミナルの到着出口を出ると、相変わらず地雷系ファッションの冬子が、首を長くしてキョロキョロとこちらを探しているのが見えた。

目が合った瞬間、嬉しくて泣きそうな顔をしているのが分かったが、すぐに抱きしめられないのがもどかしい。


周囲の人をかき分け、冬子にたどり着くと、冬子はふわっと梓馬の胸の中に飛び込んできた。
冬子の柔らかい髪の毛が梓馬の頬を優しく撫でる。



「おかえり、梓馬さん。すっごく会いたかったの…。ありがとう。」


冬子は梓馬の温もりを感じ、しばし安堵感に浸った。

冬子は思い出したように梓馬を見上げ、ニカッと笑うと
「これ、1階のゲーセンで取ってきたの♡私だと思って大切にしてね。ほら、お揃いだよ♡」

マイメロディに登場するクロミちゃんのぬいぐるみを梓馬に差し出した。

これは知ってるぞ、、地雷系のキャラや…。クレーンで2個も取ったのか。もう冬子は、俺より貧乏なはず。
等と心の中で勝ち誇り
「これを毎日冬子だって思いながら使わせて頂きます!!」

と下ネタで返したが、冬子には全く伝わらなかった。


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