【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
2、心の心の闇を照らすもの


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 傷はもう治ったのですか。

 大切なことをジルベルトに聞きそびれてしまった。今頃になって、どうしてそんな事を思い出したのか。

 マリアはおそるおそる汚れた着衣を脱ぎ捨てる。この浴室は広すぎて落ち着かず、後ろで誰かがマリアの様子を伺っているのではないかと疑心暗鬼に囚われてしまう。

 ——こんな気持ちになるのは、これまで一人きりになれない環境にいたから?

 下働きを始めてから、マリアにプライバシーなんてものは一度も与えられた事がなく。いつでも誰かに見張られているような気がしていたし、実際にそうだった。
 居酒屋で働き始めてからはもっと酷かった。入浴中にまでミアたちがやってきて、体つきが貧相だと笑われたりもした。

 念のために背後を確かめるけれど、浴室はしんとしていて人の気配はない。少しばかりほっとして、乱れ落ちたまとめ髪をほどきながらマリアは浴槽を眺め、思案に暮れる。

 ——このお湯、入れたばかりっ……。
 ほんとうに私が一番最初に浸かってもいいものかしら? 
 気を抜いたところで誰かが入ってきて、手違いだから出なさい! なんて叱られそうで……。

 この浴室だけでも、昨日までマリアが寝起きしていた屋根裏部屋の倍の広さはあるだろう。乳白色に輝く湯殿は大理石でしつらえられていて、とてもじゃないが使用人が使えるようなものとは思えない。

 湯船にゆっくりと足を浸けながら、マリアは思案に暮れる。

 ——私……。
 本当に、アスガルドの『皇城』に来てしまったのね。

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