【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!

 ジルベルトの呼吸が次第に深く、ゆっくりになっていく。
 上下する肩を見守っていると、そのうち深い呼吸は静かな寝息に変わった。

 ——待って……本当に、眠って?!

 そうっと薄灰色の髪にふれてみると、まだ少し濡れていた。
 このままではほんとうに風邪を引きそうだと、手持ち無沙汰のマリアは落ち着かない。

 膝の上で眠るジルベルトを起こさぬよう、ソファの肘掛けに掛けられたブランケットをおもむろに広げ、ジルベルトの半身にかぶせた。

 ——いつまでこうしていれば……。

 これがマリアの『仕事』だとすれば、ソファで眠るジルベルトを放り出して勝手に帰るわけにも行かぬだろう。

 成人男性の頭部を乗せているのだ、膝が次第に痺れてくる。
 小一時間ほど耐えたが、いよいよ限界が来てしまう。起こさぬように気遣いながらジルベルトの頭部を膝からそっと下ろし、頭の下にクッションを充てがった。

 ——不眠だなんて思えないほど、とてもよく眠っているわ。

「ひどい傷が治って、こんなふうに元気になって。本当に、良かったです……」

 今日一日で、本当に色々な事がありすぎた。
 心も身体も疲れ果てている。

 ジルベルトの無防備な寝顔を眺めていると、目蓋(まぶた)がとろりと落ちていく。
 まどろみは、ソファに預けたマリアの身体ごと、深い海の底に沈むように堕ちて————。


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