【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
4、すれ違う心

皇太子と後宮の花たち



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 皇城の広大な敷地内には『後宮』と呼ばれる宮殿が存在する。
 かつては皇族らの正妃・側妃たちが生活の場として過ごしていた。

 不治の病床に伏す現皇帝には、他国に嫁いだ姉はいるが兄弟はおらず、処刑された皇太子セルヴィウスと第二皇子の母親である皇后は属国の古城に幽閉されている。皇帝の愛側室であった現皇太子ジルベルトの母親も既に崩御している。

 ここ数年の後宮は、皇帝の従兄弟である大公の妻アルフォンス夫人と、ジルベルトの母方の叔父である宰相の妻ラナンキュラ侯爵夫人らが牛耳り、『行儀見習い』として属国の淑女らを集め、将来王族に嫁ぐであろう小国の姫君や上級貴族令嬢たちの礼儀作法教育を生きがいにして過ごす場となった。

「——フィフィー様。あなたがいつまで後宮にいらっしゃるか分かりませんが。エミリオ様はここに来てまだ半年、わたくしは一年半になる最年長者ってところね」

 白々とした陽光が燦々と差し込む後宮内の回廊を歩きながら、リズロッテ・ジェラルディ・フォーンは鷹揚に胸を張る。

 十六歳のデビュタントを済ませた行儀見習いたちの婚約が決まるまで、もしくは十八歳の成人を迎えるまでの最長二年間、後宮で寝食を共にするそれは、言わば『淑女たちの寄宿学校』のようなものだ。

「わたくしとエミリオ様の他にも、行儀見習いの淑女はざっと十名ほどおられます。お名前は折々覚えていかれるとよろしいでしょう。さ、こちらですわ」

 
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