【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
『殺されてしまった』
『殺されてしまった』
『わたくしたちは、殺されてしまった……!』

『あなたの所為よ』
『そうあなたの所為』

『わたくしたちを必ず守ると』
『ここにいれば安全だと言った、あなたを信じたのに!』

 男たちの声色が変わり、複数の女たちの声となる。遠くにあった黒い()は、変わらずジルベルトを見つめている。
 女たちの断末魔の叫び声が途切れることなく闇の中に響き渡る。すぐそばで幾つもの紅い()が、ぐるぐるとジルベルトを取り巻き、(うごめ)きはじめた。

 
 ——やめてくれ……!


 女たちの声が一つところに纏まっていく。
 それにつれて、周囲を彷徨っていた黒い影とたくさんの紅い()が、ジルベルトの目の前で大きな影を成した。

 いつもはここで目が覚める。なのに悪夢はまだ終わらない——こんなことは初めてだった。

 黒い影は、やがて人型となった。
 髪の長い真っ黒な人型。すぐにそれが見知らぬ女の影だと理解する。

 頭上に(かんむり)を戴いたその影の、顔の部分に集まっていく複数の赤い()は——やがて二つの()になった。

『お前がわたしの国を殺した』

 女の目がジルベルトを睨めつける。
 ふと見れば、その胸元にぎらりと光る鋭い剣の切っ尖があった。

 直感で感じる、刺される、と。
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