【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
 ジルベルトの婚約の話は知っていた。
 愛する人が誰かのものになるのを傍で見ているくらいなら、海の泡になって消えてしまいたいとさえ思っていた。

 リュシエンヌであるという素性が知られれば、冷酷皇太子の(やいば)にかかる。ジルベルトの婚約が正式に決まれば、マリア自身がその正体を自白するつもりでいたのだ。

 それなのに——

『わたくしから(したた)かに殿下を奪って……!』

 これはいったいどういう事なのだろう、頭の中がぐるぐる回って混乱する。短い間に色々な事がありすぎた。

「せっかくの舞踏会ですから、殿下。わたくしと一曲、踊っていただけますか?」

 ガルヴァリエ公爵令嬢に招待客の眼差しが一斉に向けられている。
 周囲の()があるなか、ジルベルトは《《婚約者》》からの申し出を断ることができない。

「マリア、すまない。あとで話そう」

 ジルベルトの手のひらがミラルダの指先を持ち上げて口元に持っていくさまを、マリアはすぐそばで茫然と見つめるしかなかった。

 そのまま二人は手を取り合い、円舞の輪の中に消えてしまう。

 楽団が——ふたたび優美なワルツを奏で始めた。



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