【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!

 本宮の出口に二人の衛兵が立っていた。
 名もないネズミや猫ならば皇城内に侵入した時点で即座に捕えられ、つまみ出されてしまうだろう。

 だが猫のジルは喉元の『鍵』を見せつけるように、華奢な顎を得意げに持ち上げた。
 そして衛兵たちが彼に(うやうやしく)しく敬礼するのをちらりと見れば、廊下の真ん中をつんと横切る。

 ——君たち、お勤めご苦労である。通らせてもらうよ。
 
 心根でそんなことを呟いているのだろう。

 ジルが皇后陛下から授かったこの『鍵』はエタニティー・プロンプトと呼ばれるもので、これさえあれば広大な皇城内はフリーパス、どこへでも行ける。
 皇族が認めたごくわずかな者だけが持つことを許される、言わば通行証のようなものなのだ。
 
 たとえ猫であっても、ジルにはその特別な権限が与えられているのだった。

 ぴかぴかの鍵の付いたリボンを猫の首に巻きながら、マリアは言った。
 花のように可憐な笑顔をジルの鼻先に寄せて、まるで恋人でも見るように熱く潤んだ瞳で。

『あなたにはこれを身に付ける権利がある。ジルは私の————だから。』

 記憶の断片をたどってもジルには思い出せない。
 あの時、マリアが何と言ったのかを。



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