【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!

 看守の背中が廊下の奥にすっかり消えてしまっても、マリアは次の一歩を踏み出せずにいた。

 ——鉄格子の小窓を開けて、食事を乗せたトレイを中に入れるだけよ。きっと平気……。看守が言ったようなことなんて、何も起こらないわ。

 青白く照らされた廊下は相変わらずしんと静まりかえっている。

 ——もしかして、寝てるのかしら?

 囚人が眠っているかも知れないと思えば、ほっとして自然と足が動いた。一歩、また一歩と、鉄格子の影を踏みしめながら足を進めていく。

 一番奥から二番目の牢に差し掛かったとき、思わずハッと息を呑んだ。
 すぐそばに人がいる。

 独房の奥——ちょうど小窓から月光が差し込む場所に、その男は窓を見上げながら静かに座っていた。

 男の薄灰色の髪に青白い光が当たり、銀色に煌めくように見える。
 瞳の色は、薄いブルーだろうか。
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