貴公子アドニスの結婚

離縁してください

お褥下がりの話から、何故一気に離縁の話になるのだ。
アドニスはニケの思考が理解出来ず、呆然とした。
しかしそんなアドニスをよそに、ニケは顔を上げた。

「私はもう旦那様の要望にお応えすることは出来ません。この三年ずっと耐えてきましたが、今はもう、夜がくるのが怖くて仕方ないのです」
(そんなに⁈)
初めて知る事実に愕然とするアドニスに、ニケが続ける。
「お褥下がりを受け入れていただけたら、離縁の話まで持ち出す気はございませんでした。でも、旦那様にとっても、夫を受け入れられない妻などもう必要ございませんでしょう?旦那様、どうか私を解放してください。離縁して、新しい奥様をお迎えくださいませ」
「ま、待て。早まったことを言うな。子どもたちはどうするのだ」
「もちろん私が引き取ります。私が生んだ子ですもの」
「ば、馬鹿なことを言うな。我が公爵家の嫡子だぞ?」
「男子を生めとは言われましたが、嫡子を生めとは言われてません。嫡子は、どうぞ新しい奥様に生んでもらってくださいませ。それに、娘はいらないのでしょう?」
「そんな屁理屈が通るものか!」
アドニスは思わず声を荒げた。
しかしいつになく深刻な妻に、この場はなんとかおさめなくてはならないと思い立つ。

「その…、申し訳なかった。そなたは出産したばかりで、まだ気持ちが落ちついていなかったのだな。どうか、ゆっくり休んでくれ」
「いいえ、私は冷静です」
…とりつく島もない…。
しかしアドニスは奇妙なことに思い至った。
こんなに妻と話をするのは、もしかしたら結婚して初めてなのではないかと。

「…ニケ…。とりあえず、離縁の話は今は置いておいてくれるか?子を生んですぐ離縁など、外聞も悪い」
「………」
ニケは不機嫌そうにうなだれた。
離縁を撤回する気は無いらしい。
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