貴公子アドニスの結婚

花嫁教育

アドニスの婚約者になったベルトラン子爵令嬢は花嫁修行のためにラントン家の邸宅にやってきた。
一年間の婚約期間中、同居することになったのだ。
アドニスは興味も示さなかったが、義母になる公爵夫人はやっと決まった息子の婚約者を歓迎した。
彼女を買い物に連れ出してドレスにアクセサリーにと買い与えると、侍女に命じて髪と肌を念入りに磨き上げた。
優秀な家庭教師もつけてやると、素直で従順な彼女は水が染み込むように吸収した。
賢く美しく成長していく彼女を、公爵夫人は『原石』と称して褒め称えた。
冷たい夫や嫡男に失望して無気力になっていたところに、可愛い娘が出来たと喜んでいたのだ。

婚約者が同居しても、アドニスは彼女を放置していた。
公爵夫人は買い物につきあうようにとかダンスのレッスンにつきあうようにと息子を誘ったが、アドニスは興味を示さない。
それどころか食事の席にさえ顔を出さず、さすがに父親も苦言を呈したが、彼の態度は変わらなかった。
彼にとってみれば、未だに彼女は公爵夫人の座狙いの貧乏貴族令嬢でしかなかったから。
日に日に美しくなっていく彼女を時々見かけても、(少しは垢抜けたか?)と思う程度だった。
アドニスにとって自分より美しい女性はフィリア王太子妃だけなのだから。
< 7 / 30 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop