花婿が差し替えられました
ぐすぐすとクロードの胸の中で泣いていたアリスがようやく少し落ち着いてきた頃、クロードはぐいっと彼女の顔を覗き込んだ。
「いや、見ないで」
涙でぐちゃぐちゃの顔を見られたくなくて、アリスは余計にクロードの胸に顔を埋める。
「どうして?可愛いのに」
「可愛…っ⁈」
驚いた瞬間に顔を上げたアリスの頬を、クロードは両手で挟み込んだ。
「ほら、可愛い」
「な…っ!私は可愛くなんてないわ」
今まで美人とか綺麗とか言われてはきたが、可愛いなどと言われたことはない。
だいたい、女伯爵として多くの男性を従えている自分に可愛いなどという言葉は似合わないと思う。
しかしクロードは蕩けるような眼差しと笑顔で、これまた蕩けるような台詞を吐いた。

「可愛いですよ。泣いてても、怒ってても、もちろん笑ってても。貴女はいつも、本当に可愛い」
「貴方…、いつからそんなに口が上手くなったの?」
アリスが知っていた堅物で仏頂面の青年は一体どこへ行ってしまったのだろう。
「必死なんですよ。貴女に伝わって欲しくて」
「………もうっ」
トマトのように顔を真っ赤にしたアリスは、再びクロードの胸に顔を押し付けた。
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