花婿が差し替えられました
「おめでとう、アリス。まさか、二度もこんな役をする羽目になるとはな」
アリスの父は祭壇に向かう途中、少々皮肉げにそう言った。
花嫁を花婿の元へエスコートするのは、父の役目である。
言葉は皮肉げであるが、その眼差しを見れば、言葉とは裏腹に相当嬉しいのだろうということがわかる。
「ありがとう、お父様。私、幸せよ」
愛娘の満面の笑みを見て、父もさらに眉尻を下げた。

「兄上、遠いところありがとうございました」
クロードは祝いを言う人垣の中に長兄パトリスの姿を見つけ、歩み寄った。
「ああ、領地に来たついでだよ。王都に帰ったら、ナルシスとレイモンに土産話でもしてやろうと思ってな」
そう言って悪戯っぽく笑う兄に、クロードも苦笑する。

王都を出発する前に、クロードはアリスを連れてコラール侯爵家に顔を出している。
これからしばらく新婚旅行のため留守にすると、挨拶に行ったのだ。
クロードはいちおう、事件の日にアリスが逃げる手助けをしてくれたナルシスに礼を言った。
しかし引き続き、
「兄二人もが妻に懸想しているなど心外です。アリスは正真正銘私の妻ですし兄上たちが入り込む隙は全くありませんので、もう二度と近づかないでください」
とキツく釘を刺した。
その時ナルシスは今にも泣き出しそうな顔でアリスを見つめ、レイモンは悔しそうにクロードを睨んでいた。
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