花婿が差し替えられました
(何故、俺ばかりが…)
貧乏くじをひかされるのだ…、そう思ってクロードは泣きたくなった。
この僅かの間に兄の尻拭いのために未来を諦め、義姉になるはずだった女と結婚し、その披露目のためにできないダンスまでさせられ、見世物になるのだ。
本当は全て投げ出してここから逃げ出したい。
だがそんなこと、できるはずもない。
クロードは隣の席に座っているアリスを縋るような目で見た。
彼女はそのクロードの表情から言いたいことを読みとったのだろう。
「クロード様、お手を」
アリスはにっこり微笑むと、クロードに手を差し出すよう促した。
おずおずとクロードが手を差し出すと、アリスがその手に自分の手をのせる。
二人は手を取り合ってホールの中央まで歩み出た。
(大丈夫。私が合わせますので)
肩口でそっと囁くと、アリスはクロードが引きやすいよう踏み出した。
クロードがステップを踏めば、アリスはいかにもリードされているようについてくる。
うろ覚えではあるがなんとか型は体が覚えているらしく、クロードは足捌きに夢中になった。
とにかくステップの順番を間違えないように、アリスの足を踏まないようにと。
元々運動神経の良いクロードのこと、優雅とはいかないがなんとか踊れている。
ぎこちなくはあるが、それが招待客たちには初々しく写っていることだろう。
一方花嫁のアリスは余裕を持ってクロードに合わせ、その口元には笑みさえ浮かべている。
周りから見れば、リードしているのは花嫁の方だと明らかにわかるだろう。
(なんて、滑稽なんだろう)
クロードは仏頂面のまま踊り続けた。
気づかわしそうに見上げてくる花嫁の顔など、一瞥する余裕さえなかった。

「ありがとうございます、助かりました」
クロードは席に戻ると、素直にアリスに礼を言った。
礼儀を欠かさないのは、せめてもの彼の矜持である。
アリスは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに笑顔になった。
「頑張りましょうね、クロード様。もう少しの辛抱ですから」
おそらくアリスはクロードに同情して励ましているのだろうが、弟に言い聞かせるようなその言葉がまたクロードの刺々した心を逆撫でした。
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