一人ぼっちの魔女は三日月の夜に運命の騎士と出逢う

20.友達?

「エルヴィンさん!」
「ルナ」

 いつもの高台に、エルヴィンが先に来ていた。

「あの、ハンカチありがとうございました」

 ルナは綺麗に畳んだハンカチを薬と一緒にエルヴィンに差し出す。

「これは?」
「あの薬です。警備隊でいざという時に使ってください」
「こんな貴重な物を……良いのか?」

 差し出された薬に、エルヴィンが戸惑う。

「はい! 友達の役には立ちたいですから」
「……そうか」

 友達、という言葉に、エルヴィンは頬を緩めた。

(う、わ……)

 昨日も見たけど、何度見てもイケメンの笑顔は眩しくて慣れない。

「ではお礼に俺からはこれを」

 差し出されたエルヴィンの手の中には、三日月形の髪留め。

「エルヴィンさん?」

 ルナがエルヴィンを見れば、彼は少し赤くなりながらも、嬉しそうに話した。

「これを見た瞬間、君だと思って。月が好きだと言っていたろ? それに、三日月は月の剣だと」
「うん……」

 ルナの手に髪留めを収めながら、エルヴィンが続ける。

「俺の剣が、君を守る。友人として、戦友として」

(何か、プロポーズみたいなんですけど?!)

 いちいち大袈裟な物言いに、ルナの顔が赤くなる。

(はあ、この人、友達いなさすぎて拗らせてんのかな)

 エルヴィンの方を見れば、彼は至って真面目だ。

「これがエルヴィンさんですよね」
「何だ?」
「何でもないです! 嬉しいです! ありがとうございます!」

 何度も二人で危険な場面を乗り越えて来た。そして、昨日の食事会である。

(そりゃあ距離は縮まるよね。それにしても……)

「どうした?」

 ルナをいちいちドキドキさせる言動にも気付かないエルヴィンは、笑顔で目の前にいる。

(ああ、もう!)

 ルナは受取った髪留めで髪を一房まとめる。

「どうですか?」

 ルナが頭の方を向けてエルヴィンに見せれば、笑顔だったエルヴィンは固まる。

「エルヴィンさん?」
「……とても似合う。君の黒い髪に金色の月がよく映える。まるで、出会った夜の日のようだ」

(ひえっ!)

 まるで口説かれているようだが、あくまでエルヴィンは戦友を褒め称えているのだ。

「あ……りがとうございます……!!」

 ルナが顔を赤くさせ、ワナワナとお礼を言えば、エルヴィンは「どういたしまして」と笑った。

「――!」

 そんなほのぼのとした空気は、エルヴィンの緊迫した表情で一気に変わった。 

「エルヴィンさん?!」
「ああ、禍々しい空気を感じる」
「行きましょう!」

 ルナの言葉にエルヴィンも頷き、二人は走り出した。

「ルナ、気を付けて!」

 にゃーんとルナにだけ聞こえる声でテネが忠告する。

 遠くからもわかる。

 禍々しい黒い渦が、街のはずれに立ち上っている。

 いつもよりも重く、強い闇の力だ。

「エルヴィンさん!!」
「ルナ、君は離れた所でサポートを頼む!」
「うん!」

 魔物がすでに発生している。数は多くないが、強大な力を感じる。

(月の光よ、私に力を貸して――――)

 祈るようにルナが力を開放すると、闇の力が一気にその身体に集まる。

(えっ?!)

 いつもよりも強い力がルナの身に溜まる。

(これ、は……やばい)

 がくりとルナはその場に座り込んでしまう。

「ルナ!!」

 魔物と応戦しながらもエルヴィンがこちらに目をやる。

「エルヴィンさん! 私は大丈夫だから、魔物をお願い!!」

 エルヴィンは苦い顔をしながらも、了承してくれたようで、魔物を次々に倒していく。

「くっ……」

 ルナは何とか身体を引きずるように、黒い渦へと近付いていく。

「きゃあ!」

 渦はルナを拒むように、ゴォと音を立てて、ルナの服を切り裂く。

「何これ……」
「まさかこの国の闇がここまできてるなんて……」

 エルヴィンが魔物と対峙している隙に、テネがルナの足元に来ていた。

「そんな……こんなの、どうすれば良いの……」

 渦は、ルナの外套とその下のワンピースまで切り裂き、腕には少し血が滲んでいる。

 ルナは腕を押さえながら、その場に立ち尽くした。

「ルナ!! 大丈夫か?!」
「エルヴィンさん! どうしよう!」

 魔物を制圧したエルヴィンがルナの所まで駆け寄ってきた。テネはすぐさま隠れる。

「早くこの渦を鎮静しないと……うっ」
「ルナ!」

 何とか立っていたルナだったが、足から崩れ落ちてしまう。

 エルヴィンはルナをふわりと抱き上げた。

「エルヴィン……さん?」
「無理をするな、ルナ。俺が支える」

 力強く語りかけるエルヴィンに、ルナも安心する。

「いつも、すみません。今日は早くにお世話になっちゃいました」
「気にするな。俺たちは戦友だ」

 エルヴィンの言葉に、ルナはコクリと頷く。

「支えててください」
「任せろ」

 ルナはそのままエルヴィンに抱きかかえられたまま、渦に手をかざす。

(月の光よ、私に力を貸して――)

 エルヴィンから注がれる聖魔法に後押しされ、ルナの月の光が一際光り輝く。

 渦の闇が爆発するように一気にルナに流れ込む。と、同時に渦は弾け飛んで、消えた。

(これは……やばいわね)

 エルヴィンの腕の中で、ルナは身体の力が抜けるのを感じた。

「ルナ?! 大丈夫か?」

 心配そうに覗き込むエルヴィンに、ルナは力無く笑った。

「は、は……しばらく動けそうにありません。いつも通り休んでいっても良いですか?」
「……それならちゃんとした所で休んだ方が良い」
「え?!」

 いつも通りその場で休みたいと言ったルナに、エルヴィンは固い表情で告げた。
< 20 / 42 >

この作品をシェア

pagetop