その恋、まぜるなキケン



——旭はお店の女の人と寝たりすることもあるのかな?


夜ご飯を食べ、真紘は結局家の前まで綾人に送ってもらった。


旭はまだ帰っていない。


真紘はさっきのことを思い出しながら、淡々と時を刻む時計の針を見守った。


真紘が時計を見始めてから針が1周半した時、玄関の方からドアが開いた音がする。


もちろん帰って来たのはこの家の主である旭。
彼は酒、煙草。


そして女性モノの香水の匂いを全身にまとっていた。


帰って来てくれたことにホッとしたと同時に、真紘は彼が今晩帰って来ないんじゃないかと少しでも疑ってしまった数分前の自分が嫌になった。


「さっき……ではないけど。新宿で真紘のこと見かけた」


「……旭は気づいてないかと思った」


「真紘、あの刑事さんともまだ寝てんの?」


旭は真紘と綾人を見かけた時のことを思い出してつい突っかかってしまった。


晃が裏で確実に動いていることは確かなのに、未だになんの手がかりも掴めていないこの現状への苛立ち。


そして、真紘を巻き込むだけでなく体を張らせてしまっている罪悪感。


それらが混ざれば心中穏やかにいれるはずもない。


真紘は一瞬旭が何を言っているのか理解できなかった。


「ちょっと待って!〝あの人〟とだって、好きで寝てるんじゃないのに!」


「なら今すぐやめろよ!」


「旭がどうなるか分かんないぞなんて脅されたら、私は言う通りに頷くしかできないもん!こんな危険な駆け引きなんてやってくるような人生じゃなかったから!」


家中に響き渡る大きさで叫んだ旭につられ、真紘も珍しく声を荒げた。


何か情報が得られるかもしれないと思い晃の懐に入ったのに、現状何の役にも立てていない自覚があるからこそ、旭の指摘に耳が痛くてつい言い返してしまった。


しかし、好きで杉本組に入ったわけではない旭に対して言っていい言葉ではなかったかもしれない。


「ごめん……ちょっと言いすぎたかも」


真紘が心の底から出た言葉ではないことは旭にも分かっていた。


それでも、自分でも思いのほか傷ついて、その謝罪をすぐに受け入れられる余裕はなかった。


旭は無言で真紘に背を向けて、玄関の方へ向かう。


「待って!私が出て行くから!だから行かないで!」


真紘は咄嗟に旭の手を掴んだが、鬱陶しそうにあっさり振り払われ、目の前でガチャンとドアが閉められた。
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